「元徴用工問題」解決策出した韓国と日本の決定差 「決められない」岸田氏を待っていられなかった

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実際、最大野党である「共に民主党」はすぐにこの宣言を非難する動きを見せ、その見解に好意的なメディアが反応した。3月1日、日本の植民地支配に対する韓国の反乱を記念する重要な祝日に行った演説の場において、尹大統領はすでに非難を浴びていた。

こうした中、尹大統領は日本に対する直接的な攻撃は避け、「日本は過去の軍国主義の侵略者から、私たちと同じ普遍的な価値を共有するパートナーに変貌した」「両国が協力してグローバルな課題に対処していくべきだ」と述べた。

今後の焦点は被害者が解決策を受け入れるか

こうした愛国心に対する攻撃にもかかわらず、尹政権は韓国国民の大多数の支持を得られると、このアプローチに対する韓国側の支持者は確信している。重要なのは、日本企業に対する現在の訴訟において名前が挙がっている被害者が、新基金からの支払いを喜んで受け入れるかどうかだろう。

韓国の有力な情報筋によると、この訴訟で原告側の15家族のうち9家族は、韓国政府にこの提案を受け入れる意思があると伝えており、残りの6家族の一部もこれに従う可能性があるという。

だが、これらの被害者は、より広範な集団訴訟で補償を求めている、さらに大きな訴訟集団のほんの一部に過ぎない。この基金が彼らに対処するのかどうかは、現時点ではまだはっきりしていない。

より大きな問題は、この一方的な解決策に反対する韓国の市民社会活動家団体にある。団体の一部は、保守政権に深く敵対している。

日本政府は、この解決策が韓国で破綻する可能性があることを認識している。日本政府は来月の尹大統領の訪日を受け入れ、広島で開かれるG7サミットに韓国の指導者を招待する準備をすることで、ある程度の対応はしている。

また、韓国での半導体製造に必要な主要化学物質を提供するためのライセンス承認を遅らせる輸出規制の撤廃にも素早く着手している。これらの動きは、長い間、この瞬間のために取っておいた課題だった。

しかし、岸田首相は、政治的リスクを冒してまで、日本の戦時中の不正、特に元徴用工に対する真摯な個人的反省を表明することはできない、あるいはしたくないようである。故・安倍晋三元首相の派閥が、さらなる謝罪を示唆するような発言に反対しているのは周知の通りである。岸田首相はその代わりに、戦争に関する過去の日本政府の声明を再確認するという、かなり臆病な提案に落ち着いた。しかし、これは首相の勇気の証しとは言いがたいだろう。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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