「コンビニ人間」が資本の論理の最終形態である訳 感情までも「商品化」する「包摂」という概念

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19世紀に生きたマルクスが目撃した「実質的包摂」の到達点は、大規模な機械が工場に導入され、機械が生産の主役となり、人間がその補助役になってゆく、つまりそれこそ機械の「部品」に人間がなってゆくという段階でした。こうした生産様式は、ベルトコンベア式の生産ラインとして先進工業国に普及してゆきます。

そこで現れたのが、「テイラー主義」と呼ばれるものです。この言葉は、アメリカの経営学者、フレドリック・テイラーに因むものですが、彼は「科学的管理法」を提唱しました。何を管理するのか? それは労働者の肉体です。機械の動きに合わせて単純な動作を反復し続けることは、当然大きな苦痛をもたらします。テイラーは、そのような苦痛から逃れようとする労働者の体を科学的に管理する必要を訴えました。

テイラーは他方で、この苦痛に対する見返りを強調しました。すなわち、苦痛に耐えて生産性の向上に貢献すれば、労働者が務める企業は売り上げを伸ばし、それは賃金の増加として還元されるのだ、と。この考え方は、20世紀の後半以降、資本主義社会の常識となってゆきます。かつては労働者を低賃金で搾取することしか考えていなかった経営者は、消費者としての労働者がより大きな購買力を持って商品を買ってくれることを期待して相対的に高い賃金を払うようになり、かつては生産性の向上に抵抗していた労働者の側も、テイラー主義を受け入れて賃上げを重視するようになります。

このようにして成立した、大量生産大量消費を前提とし、主に耐久消費財を経済成長の基軸とする資本主義社会の在り方を、「フォーディズム」と呼びます。この名称は、アメリカの自動車メーカー、フォード社に因むものです。かの有名なT型フォードを生んで自動車を大衆的に普及させたフォード社こそが、この考え方を最初に実践した企業であったからです。

「実質的包摂」の最終形態「コンビニ人間」

しかし、資本と労働者が共存共栄しているかに見えたフォーディズムの時代は、オイルショック以降の世界資本主義の停滞のなかで終わってゆきます。それ以降の時代は「ポスト・フォーディズムの時代」と呼ばれたりもしますが、そこで起こったのは、いわゆる産業構造の転換でした。すなわち、モノをつくる第2次産業から、サービス産業(第3次産業)へと経済活動の中心が移ってゆきました。

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