「串カツ田中」新人告発騒動に見た3つの重要論点 マニュアルはちゃんと守られてこそ意味がある

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こうして考えると今回は騒ぎが広がった翌日には「事実を確認中であり、公表すべき内容が発生した場合には速やかに公表致します」「社会全体にご心配とご迷惑をおかけしたことに対して深くお詫び申し上げます」というリリースをまず発表し、拡散され続ける中で企業として動いていることを示した。さらに翌日には事実関係をおおむね認めて具体的な発表をしたことは適切なスピード感もあったと思う。

私は経済部記者時代の2007年1月に、不二家が消費期限切れの原材料を使用していた不祥事を取材した。この時代にはまだSNSは無かったが、それでも朝夕刊、テレビの定時ニュースのたびに不二家の内部から告発がメディアに入り、さらにニュースになっていくスピードに日頃平和な企業の広報はついていけなかった。

真価が問われるのは有事の後

その後手後手の対応が火に油を注ぎ、当時の社長は引責辞任し、しばらくして大手食品メーカーの資本を受け入れての再建となった。まして現在では1日経てばSNSでどれだけ拡散されるかわからない。これまでの常識では今回は早い広報対応だと評したが、さらに早い広報対応がSNS時代に求められていることは間違いない。

SNS時代の広報でさまざまな専門家から指摘されているこのスピード感の陰で忘れられがちだと私が思っていることがある。企業、広報に重要なことは自社の騒ぎの経緯を報告して謝罪して終わりではないということだ。

「面倒な嵐が過ぎ去るのを待とう」という姿勢の広報対応ではなく、これを機に先に述べたような、多くの現場従業員により支えられている企業の重要なポイントである「マニュアル」に、どのように魂が入り、血や肉となるものにしていくのか、「この会社は変わったな」という姿を消費者に理解をしてもらえるのかが重要だ。つまり企業の真価が問われるのは有事の後にある。

「また?」というように類似の騒動を繰り返す企業は意外に少なくないことを忘れてはならない。逆にビジネススクールの模範事例とされるような、痛い経験から学び、消費者の信頼と安心感を勝ち取る対応をしてもらいたいと思う。

大野 伸 日本テレビ放送網「news every.」前統括プロデューサー

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おおの しん / Shin Ono

早稲田大学パブリックサービス研究所研究員、早稲田塾講師、日本メディア学会会員、sweet heart project(障がい者自立支援プロジェクト)アドバイザー。1996年に日本テレビ放送網入社。報道局に配属になる。2008年から経済部デスク兼ニュース解説者として「news every.」「スッキリ」「NEWS ZERO」などでスタジオ解説、ラジオ日本の朝の番組「岩瀬惠子のスマートNEWS」での解説など。2013年に営業局へ異動。2016年より報道局にて「Oha!4 NEWS LIVE」プロデューサー、2018年12月から2022年5月まで「news every.」統括プロデューサーを務める。早稲田大学大学院政治経済学術院公共経営研究科修了(公共経営修士)。

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