「もののけ姫」が描いた「結果より過程」の哲学 目的なく「顔を出す」行為に支えられている社会

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しかし、その利益ばかりを追求した結果、自分の働いている店で出している食べ物や工場で作っているけれど、家族や友人には食べさせたくないようなものが商品として流通するような社会になってしまった。これは明らかに、利潤をできるだけ多くするという資本主義の結果や目的のみを重視したことによる弊害です。

忘れてはならないのは、僕たちも自然を内包した生き物だということです。今若い人たちがどんどん仕事を辞めている背景にあるのは、若い人たちの生き物の部分が警鐘を鳴らし、この社会にいたら死んでしまうという直感が働いているためです。その直感は当たっています。

今の社会では生きるよりも稼ぐほうを優先していて、残念ながら生き物が健康的に生きられる空間ではありません。反対に、過程を大切にする、生き物が生きられる環境のある社会やそれを構成する会社や職場には現に人が集まっています。

給料が高い低いではありません。資本主義の目的に忠実に従っている会社に、人はもうやって来ません。しかし、この状況はむしろ、社会が健全になっている兆候だと思っています。

「社会人」ではなく「人間」が生きる環境をつくる

確かに村や村社会のような会社が、「顔を出す」「直接会う」ことを課題解決の唯一の手段と考えているならば、その集団は早晩滅んでいくはずです。重要なのは、いくつかある選択肢において「顔を出す」ことを主体的に選択できるかどうかということです。

『手づくりのアジール 「土着の知」が生まれるところ』(晶文社)。(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

その再帰的な「顔を出す」ことは、虚心坦懐に現地に赴き、人と会い、環境を知り、できるだけ生き物が生きられる社会を目指すことを意味します。それは決してエコロジストだけの課題ではなく、自然を内包した僕たちが暮らす都市においても同じことです。

生き物の暮らせない環境に、人間が暮らすことはできません。それは会社も同じことです。若い人が入ってこない会社や団体は、まずは社会人ではなく生き物が暮らせるような環境を整えることが最優先課題です。

そのために重要なのは資本主義のルールに則って物事を独裁的に「決める」ことではなく、現場に立ち、周囲の声に耳を傾けながら「曇りなき眼で見定めよう」とする態度なのです。

青木 真兵 「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター、古代地中海史研究者、社会福祉士

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あおき しんぺい / Simpei Aoki

1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークとしている。2016年より奈良県東吉野村に移住し自宅を私設図書館として開きつつ、現在はユース世代への支援事業に従事しながら執筆活動などを行なっている。著書に『手づくりのアジール──土着の知が生まれるところ』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館──ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』シリーズ(エイチアンドエスカンパニー)などがある。

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