「もののけ姫」が描いた「結果より過程」の哲学 目的なく「顔を出す」行為に支えられている社会

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一方で「顔を出す」という、一見目的がわからないことに貴重な時間を費やすのはもったいないという考えもあるでしょう。

例えば、みなさんの職場でも基本的なコミュニケーションはメールやチャットで、もうちょっと込み入った要件は電話で、肝心なところは直接会うなど、その理由や優先度に応じてコミュニケーションの方法を使い分けてはいないでしょうか。

その優先度の高低がなぜつくかというと、仕事には目的があるからです。その目的を達成することに対して優先度がつけられているのです。この考え方は非常にわかりやすいと思います。

「ままならない自然」に向き合うエボシとサン

「顔を出す」ことに思いを巡らすと、ふと頭に浮かぶのはスタジオジブリの映画『もののけ姫』です。1997年に発表された宮崎駿監督のアニメ作品『もののけ姫』は、物語としてはもちろん、躍動する人物の動き、幻想的な大自然の風景など、いわゆる「宮崎アニメ」の真髄が描かれていて、観ているだけで力が湧いてきます。

『もののけ姫』の舞台は前近代社会です。物語の中心をなすのは山間部に位置する都市タタラ場と山に住む動物たちの争いが、タタラ場を率いる女性のエボシ御前と大きな山犬に育てられた少女のサンの対立を中心に描かれます。そこに東のエミシの国から訪れた少年アシタカヒコや、森の神の首を狙う男性ジコ坊などが登場します。

観てみるとわかるのですが、タイトルは『もののけ姫』でも作品はアシタカを中心に展開していきます。もともと宮崎監督は『アシタカせっ記』という題を考えていたそうですが、鈴木敏夫プロデューサーが『もののけ姫』のほうが良いと、勝手に特報を打ってしまったのは有名な話です。

さて『もののけ姫』では、文明の象徴であるタタラ場を率いるエボシ御前と、山犬や精霊とともに山で暮らす少女のサンの対立が軸となっていることは前述のとおりです。この対立の背景には、両者を特徴づける「本質的に異なる自然」があります。

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