「もののけ姫」が描いた「結果より過程」の哲学 目的なく「顔を出す」行為に支えられている社会

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用事が無くても少しだけ「顔を出す」ことの重要性とは(写真:Ushico/PIXTA)

正直に言うと、「顔を出す」ことの意味がよくわかりませんでした。

現在は辞めてしまったのですが、東吉野村に移り住んでしばらく経ったとき、お誘いを受けて消防団に加入しました。訓練は月に一度。詰所に集合します。しかし、僕が加入したタイミングでコロナが蔓延し始めたこともあって、訓練はなくなり、公式には定期的に集まることはなくなりました。

僕は訓練がないなら集まる必要はないと思い、また福祉の仕事をしているのでリスクを最小化しようと、集まりには行きませんでした。しかし、どうやら「少しぐらい顔を出せばいいのに」という評判が立っていたそうです。

なぜ「顔を出す」ことが大切なのか。自分なりに考えてみたいと思いました。

「目的ドリブン」では気づかなかった価値

そもそも、消防団の目的は「火を消すこと」だと思っていました。しかし、よく考えてみると、火を消す専門集団ではない村の消防団にできることは限られています。むしろ村の自治の一部を担う集団にとって、火を消すという名目で持続される、人間関係のほうが大切なのです。

消防訓練がないなら集まる必要はないと思っていたのですが、火を消す訓練を通じて地縁、血縁共同体の結束を高めるとか、仲間入りをするとか、むしろそういうほうが本質的な目的だったのだと、今はわかります。そういう意味で、火を消すか消さないかはいったん置いておいて、とりあえず「顔を出す」こと、つまり、「直接会うこと」のほうが重要だったのです

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