日本人が「サバ缶」の品薄に苦しむ"本当の理由" 水揚げしたサバの半数近くが食用にならない

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サバ缶の話に戻りましょう。北欧でも大西洋サバを加工してデンマーク・ノルウェーなどでサバ缶の生産が盛んです。しかし大西洋サバ(ノルウェーサバ含む)の資源は安定しているため、サバ缶がなくなるといったことは起きません。

ノルウェーで生産されたサバ缶(写真:筆者提供)

漁船ごとに実際に漁獲できる量より、はるかに少ない漁獲枠が決まっています。そのため漁業者は「できるだけ多く獲る」ではなく、「できるだけ水揚げ金額が多くなる」ことを考えて漁をしています。これはすでに30年以上前からできている仕組みです。

このためわが国のように、食用にならないようなサバの幼魚を一網打尽にするようなことは、経済的にも資源的にも絶対にしないのです。

食用にならない小サバ・通称ジャミサバ(写真:筆者提供)

缶詰にも利用できないような、「ジャミ」とか「ローソク」とか呼んでいる食用に向かないサバの幼魚を獲り続けてしまう日本の漁業の仕組みは変えねばなりません。そうしなければ、将来に大きな禍根を残してしまうことになるのです。

事実関係をよく知ることが重要

なぜ、サバだけでなくサンマ、スルメイカ、イカナゴ、アジ、シシャモをはじめ日本中で多くの魚介類が減り続けているのか? 科学的根拠に基づく資源管理が必要です。

水産物価格は上昇を続けています。しかしその原因は、輸入水産物のように価格上昇を転嫁しなければならないケースもあれば、日本のサバ缶のように、幼魚を獲りすぎて魚が小型化してしまい、原料不足に陥って価格が上昇してしまうケースもあります。

国は資源管理を進めようとしています。やるべきことは「国際的に見て遜色がない資源管理を行うこと」です。獲り切れない漁獲枠ではなく、資源管理に効果が出る枠の導入を始めるべきです。そしてすでに多くの結果が出ている海外の資源管理の成功例を、客観的な事実に基づいて、積極的に取り入れて、回復させていくことではないでしょうか。

片野 歩 Fisk Japan

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かたの あゆむ / Ayumu Katano

早稲田大学卒。Youtube「おさかな研究所」発信。2022年東洋経済オンラインでニューウェーブ賞受賞。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。長年北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国であるノルウェーには、20年以上毎年訪問を続けてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会)他。

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