日本人が「サバ缶」の品薄に苦しむ"本当の理由" 水揚げしたサバの半数近くが食用にならない

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食用にならないような小さなサバを獲らない仕組みが不可欠です。サバの水揚げ量は、前述したようにノルウェーよりも多くありました。しかしながら、食用にならないサバをたくさん獲っているため、日本で食べる国産サバが足りない事態が続いているのです。

水揚げ量は多いのに肝心の日本での食用に向くサバが少ない。そして足りない分を輸出価格より高い価格で、ノルウェーなどから輸入――。海外から見れば、資源管理を進めない日本はとても不思議な国なのです。

誤解しか生まない自然への責任転嫁

こちらのグラフをご覧ください。「イワシの大群がサバを追い出している」といった報道についてですが、魚種間でエサの取り合いがあるにしても、1980年代に今よりもはるかにマイワシの漁獲量が多かった時期でも、マサバは今よりも獲れていました。マイワシの大群がサバを追い出しているとしたら、1980年代のサバの漁獲量は、今よりはるかに少なかったはずです。

また「マイワシがサバを底のほうに追いやっている」といった説についても、仮に生態的にそういうことがあったとしても、資源の観点ではほぼ無関係です。日本の太平洋沖合で、両国の合意に基づきロシアのトロール漁船がサバを漁獲しているのをご存じでしょうか。

トロール漁船は、巻き網船より深い水深でも漁獲が可能です。しかしながら、そのロシア漁船も漁獲量が2021年漁期(~12月上旬までの比較)の4割減といった情報があります。

万一マイワシにサバが底に追いやられているとしても、トロール漁船の漁獲には影響はありません。しかし資源量が少なければ漁獲量は減少します。日本の巻き網漁船の関係者に聞くと、深いところにいてもサバの魚群がいれば確認できるそうです。つまりサバが獲れないのは、資源量が少ないからと考えられるのです。

資源量がよくわからなければ、FAO(国連食糧農業機関)の行動規範にあるように「予防的アプローチ」をすることが不可欠です。しかし、わが国ではサバをはじめ漁獲枠が「実際に獲れる漁獲量」より多く設定されている場合がほとんどです。このため、ノルウェーなどと異なり、できるだけたくさん獲ろうという意思が働いてしまいます。

水産資源の悪化はすでに価格上昇や品不足という形で、消費者にも影響が出てきています。そのような環境下で、資源管理の内容が伴わない情報は、資源管理を行っていくうえでプラスには働きません。

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