ワークマン「アパレル本格参入」で露見した危うさ ユニクロとの「対決姿勢」が鮮明になった背景

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さて、ここまでは「巧みさ」を解説してきた。だが、この「巧みさ」は「危うさ」も併せ持つ。

「ユニクロ対ワークマン」はメディアでの「見せ物」としては確かに面白いものにしやすい。だが、ワークマンがユニクロ以上の共感や支持を得られるかはまったく別の話である。消費者から見れば、どちらが勝とうが「アパレル業界のシェア争い」にすぎないからだ。

いわば、「自分には関係のない、どうでもいいこと」。「危うさ」とは「見せ物で終わってしまい、消費者からの共感を得られずに終わる」ということだ。

共感を得るために「自分ごと」にさせる必要がある

ここで広報PRの際に「敵」を設定したことで、「メディアでの扱い」だけではなく「消費者の支持」まで勝ち取ることに成功した例を見ていきたい。古い例になるが、最も代表的なのは固定通信、さらに携帯電話に新規参入した際のソフトバンク・孫正義社長だ。

「日本のインターネットは先進国で世界一遅く、世界一高い。日本のネット業界のため、日本のネットユーザーのため、日本で最大の企業、あのNTTを打ち負かす」

この発言は私がテレビ東京の記者として『WBS』を制作していた当時、孫社長にインタビューをしたときのもの。NTTを敵として位置付ける、この孫社長の発言には「二重の仕掛け」が巧みに施されている。 

ひとつは「日本のネット業界のため」「日本のネットユーザーのため」と目的を定義している点だ。NTT関係者からすれば、反論は大いにあるだろう。実際、私もNTTの幹部を取材した際には、「孫社長は強引な論理でレッテルを張ってくる」などと、悲痛な反論を聞くこともあった。

だが、孫社長は「日本のネットが遅く、値段も高い」のは、「NTTが圧倒的なシェアを握っているため」と断言する。孫社長の戦いは「日本のネットユーザーのため」であって、「通信業界の単なるシェア争い」ではないと訴え続けた。

この主張を聞いた多くの視聴者には、孫社長は自分たちの味方のように映ったはずだ。孫社長がNTTとの戦いに勝って通信料金が安くなれば、自分たちの懐にも余裕が出るということになる。「孫社長のNTTとの戦い」は、「どうでもいい他人事」ではなくなるのだ。

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