「認知症の親」から円滑に相続する"1つの方法" "もしも"に備えられる「家族信託」のすすめ

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これでいつ親が認知症になっても大丈夫です。家族信託には7つのメリットがあります。信託財産にした親の預金は、受託者である子どもが引き出せます。自宅での24時間介護も、老人ホームの入居一時金にも親の預金で対応できます。だから、相続後にもめやすい、「子どもの立て替え払い」をする必要もありません。

また、家族信託は、実質的に遺言書とすることもできます。たとえば、介護に配慮した財産分けを信託のなかに組み込むこともできます。

さらに、遺言書は書き換えが自由ですが、家族信託は書き換え禁止もできます。だから、受託者となった子は、安心して親のために尽くせるのです。親の希望に沿う、良い老人ホームに入居する可能性も、もちろん高まります。

しかし、実家が空き家になることには変わりがありません。それでも、実家を売ることや貸すことも、受託者である子どもができるのです。だから、あたかも相続して、子どもが自分の財産となったものを処分できるようになったかのようなのに相続税のかからない「事前相続」とも言えるのです。

「家族信託」は子どもに迷惑をかけないためのもの

こうして、まずは最大の危機だけには対応できるように備えておきます。

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家族信託は歴史の浅い法律制度です。あなたもご存じでないのですから、親も兄弟も、ほとんどが知りません。まずは、家族信託を知ってもらうために家族への「家族信託の説明」が必要です。

従来よく言われていた、遺言書や相続対策のための「遺言会議」では重々しい感じがします。それに親にとっては生前のメリットもないし、自分の「死」が前提ですから、親も気乗りがしません。

しかし家族信託は、親自身がメリットを受け、子どもにも迷惑をかけません。そんな良い制度であることを知ってもらうのが家族への「家族信託の説明」です。

また、遺言や遺産分割と異なり、親は全財産をさらけ出す必要もありません。教えてもらうのは、実家と管理費用分の預金だけですから、合意も得やすいのです。

合意といっても、絶対必要な合意は、親だけです。親が自分の財産を子どものうち、1人に任せるという契約ですから2人でOKです。しかし、他の相続人となる家族への説明がまったくないと、後でもめる元になりますから、説明はしておいた方がよいのです。

牧口 晴一 税理士・行政書士

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まきぐち せいいち / Seiichi Makiguchi

1953年生まれ。税理士・行政書士・法務大臣認証事業承継ADR調停補佐人。慶應義塾大学法学部卒、名古屋大学大学院 法学研究科(会社法)修了。税理士試験5科目合格。1986年開業。2015年『税務弘報』9月号で「トップランナースペシャリスト9」に選出。「相続博士・事業承継博士」として活動する。また、NHK文化センターで相続・会計・事業承継の講座を10年余り担当している。主な著書に『非公開株式譲渡の法務・税務(第7版)』『事業承継に活かす納税猶予・免除の実務(第3版)』『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第4版)』(以上、中央経済社)、『図解&イラスト 中小企業の事業承継(第14版)』(清文社)等多数。

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