この言説からは、外国経済との相互依存を深めることが中国をより有利にするという認識が浮かび上がる。つまり習近平政権が一貫して「対外開放」をアピールしてきた背景には、国際経済の中国経済に対する依存を深めさせるという戦略的狙いがある。昨年10月の第20回党大会の報告でも「ハイレベルの対外開放を推進する」という節のなかで「わが国の超大規模市場の優位性をよりどころとし、国内大循環によって世界のリソースを集め、国内・国際の2つの市場、2つの資源の相乗効果を高める」との目標設定が示された。
取り得る報復措置を採らない中国
中国の経済安全保障の実態が外部からわかりにくい理由の1つに、未だに経済安全保障を事由とした明示的な法的措置を採っていないことがある。習近平政権はこれまで、「信頼できないエンティティ・リスト」の導入、輸出管理、投資審査、域外適用への対応等、関連する国内法を整備してきた。しかし2022年10月のバイデン政権による半導体関連輸出規制に対してもWTOに提訴するにとどめた。トランプ政権時代に4段階の対抗関税を実施したことを思い起こせば相対的に穏当な対応であった。
こうした対応については、第1にこれは過渡的な方針にすぎない可能性が高い。今の経済情勢では、真っ向からの対抗は得策ではないと判断しているのだろう。第2に実態として企業買収や合弁を介した従来型の技術獲得、あるいは政府調達規制による海外企業へ圧力が継続していることに留意すべきだろう。第2の点は本特集の次回以降の論考で検証することとし、ここでは第1の要因について「反外国制裁法」の実施を踏まえて論じる。
全国人民代表大会常務委員会での可決により2021年6月に成立した反外国制裁法は全16条の短い法律ながら、商務部が公布した「信頼できないエンティティ・リスト規定」および「外国の法律および措置の不当な域外適用の阻止に関する弁法」の上位法にあたり、外国の差別的措置に対抗するための法律的根拠を与えるものと位置付けられる。
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