中国の「経済安全保障」何をどう備えているのか 顕在化している以上に高いリスクに望ましい対処

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続いて2015年7月に成立・施行された「国家安全法」19条は、「国家の基本的な経済制度と社会主義市場経済秩序を保護し、経済安全保障リスクを防止・解決するための制度的メカニズムを改善する」ことを国家の役割と規定した。すなわち中国は他国に先駆けて、国家主導での経済と安全保障の一体化を図り始めていたのである。

また「経済安全」の用語が使われる以前から、一貫して科学技術が重視されてきたことは注目に値する。かつて周恩来が1960年代に「4つの近代化」として農業、工業、国防、科学技術の4分野での近代化を提唱したことにはじまり、伝統的に中国は海外から先進的な技術を導入してきた。そして習近平政権が繰り返し言及する「ハイレベルの科学技術の自立自強」のカギとなるのが先端技術の内製化であり、当然ながら海外にある科学技術の獲得も焦点となっている。

「双循環」論にみる独自性

習近平政権の経済安全保障へのアプローチにおける最大の特徴は、中国の巨大な市場がもつ優位性を明確に認識している点である。それを戦略論として示したのが2020年に提起した「双循環」の概念である。ここで「『国内循環』を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互に促進する」ことを目指し、消費を主とする内需主導型への経済の構造転換を目標に掲げた。

経済安全保障の観点からみる「双循環」の要諦は、自己完結型の「国内循環」を形成することで経済的自立を確保することにあり、習政権は徐々に国有企業重視へとシフトしてきた。その対外的影響について、2020年4月に習近平は次のように述べていた。

国際的な産業チェーンを我が国への依存関係に強く引き付け、外部からの人為的な供給遮断に対する強力な反撃力と抑止力を形成する。  

次ページ国際経済の中国経済に対する依存を深めさせる戦略的狙い
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