権力とは、財布を握っていることである 東京税理士会会長が読み解く「帳簿の世界史」
ところが、ここにルネサンスがおきます。ルネサンス期にはプラトン思想が重んじられるようになり、プラトンのエリート主義は、商人の現実的・実務的価値観を軽蔑するようになったのです。会計自体も下品で不道徳な習慣とみなされるようになりました。
コジモの孫のロレンツォの世代になると、当主は、金庫を空っぽにして、金にあかして一族のために教皇の職を買うまでになります。
さらにメディチ家の財政を悪化させたのは、外国の王族にカネを野放図に貸し、それが焦げついていってしまったことでした。この頃になると会計そのものがでたらめになり、焦げつきで破綻したリヨン支店も決算書だけを見ると利益率はなんと70~105%の間で推移していました。不良債権が長期にわたって計上されたまま、見かけの利益を水増ししていたのです。監査がきちんと行われていれば、こうした不良債権はただちに発見され、損失引き当て金を積みましなどの処理が行われていたはずでした。こうした財政の放漫により、メディチ家は破産状態になり、1494年にはフィレンツェ追放の憂き目にあう。
ルイ14世は優秀な会計士に支えられていた
本書ではスペイン、オランダ、フランス王政と会計士たちという歴史の陰の男たちを追っていますが、みな同じパターンなのです。会計士を重用し繁栄し、疎んじて衰退する。
たとえば、本書の中では、「朕は国家なり」とのせりふで有名な、フランスのルイ14世が出てきます。ルイ14世が国王に就任した当時、王国の財政は逼迫していました。しかし、後にルイ14世は、巨万の富を得て世界最大の富豪となり、「太陽王」と呼ばれるほどの権力を握ることになります。その裏ではいったい何が起きていたのか。――実は、ルイ14世には、非常に優秀な会計顧問、コルベールがいたのです。
コルベールは、後世のアダム・スミスにも「徴税と歳出・歳入管理に方法論と秩序を持ち込んだ」人物として、評価されています。国家の財政を帳簿で管理・チェックする体制を整えた彼の改革によって、フランスの財政は立ち直ったのです。
当初はルイ14世も、そうしたコルベールの手腕を高く評価し、自らも監査を行うために会計を学びました。しかし、時が経つにつれて、彼はコルベールのことを疎ましく思うようになります。それは、「宮殿の建設にカネがかかりすぎている」「オランダとの戦争で国庫が空になりそうだ」といったコルベールからの進言に、嫌気が差してしまったからです。今の時代でも同じですが、帳簿は組織のトップの失敗を、はっきりと表す存在でもあるのです。
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