「走らない改造車」が増えた切実でも納得の事情 今「チューニングカー大転換期」だと言える理由

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同作品はアメリカのみにならず、日本を含めたグローバルで高い興行収益を上げ、続編の撮影も始まったのだが、アメリカ国内でチューニングカーに対する警察の取り締まりが一気に強化されたため、そのブームは数年であっさり消滅してしまった。

それ以降、アメリカでの日系チューニングカー事情は大きく変わり、一部の愛好家が法規に合致した領域でチューニングを楽しむ、またはアフターマーケット見本市の「SEMAショー」などでの展示目的として、“走行しないこと”を前提とした過激なデコレーションをすることが主流となっている。チューニングカーも、時代とともに変化しているのだ。

チューニングカーはこれからどうなるか?

では、これから先のチューニングカーはどうなっていくのだろうか。筆者は、前述のような「日系ネオクラシックカーのコレクタブル」と富裕層による「欧米系高級BEVチューニング」へと2極化していくと見ている。

新旧の日産「フェアレディZ」。古いモデルはすでにコレクタブル化している(筆者撮影)

それはなぜか。これから日本車のBEVシフトが進んでも、一般的な自動車ユーザーがBEVを積極的にチューニングするようなトレンドは生まれにくいと推測するからだ。

日系チューニングカーは、そもそもがガソリンエンジンを使ったクルマのカルチャーであり歴史であるからこそ、現在のような“コレクタブル化”が起こっている。つまり、BEVのカスタマイズとは、まったく趣味の領域が違う。

一方で、ヨーロッパを起点に急激に進むBEVシフトの中では“スーパーカーのBEV化”も加速しているから、より速いBEVを求める声が富裕層の間で拡がる可能性は十分にある。

東京オートサロン2023にトヨタが出品した「カローラレビン」のBEV仕様(筆者撮影)

そんな中、トヨタは東京オートサロン2023で、1980年代のAE86型「カローラレビン」/スプリンタートレノ(通称:ハチロク)」をベースにしたBEVと水素燃料車を登場させて話題となった。

これらは、あくまでもトヨタがカーボンニュートラルを意識したマーケティング活動の一環で、チューニングカー市場をこの方向に引っ張っていこうという意思表示ではないだろう。

しかし、トヨタがこのタイミングで、この2台を披露してきたインパクトは大きい。いずれにしても日系チューニングカーは今、大きな時代の転換点に立っているのだ。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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