岸田政権肝いり「スタートアップ支援」の重大欠陥 日本がフランスの成功例から学べるポイント

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スタートアップ自体は、成長が期待できる知識集約型のイノベーターであること、3年間の売り上げの3分の1以上を研究に充てていること、従業員数が500人未満であること、EU(欧州連合)に本社があることなどの基準を満たす必要があった。

2000年から2017年の間、7年以内の企業に投資した国民は、投資を5年間継続する限り、最大控除額1万2000ユーロ(約170万円)――夫婦の場合は2万4000ユーロ(約340万円)――まで、毎年投資額の25%分の所得税を軽減することができるようになった。

また、「富裕税」と呼ばれ、多くの中産階級の人々を苦しめてきた税金を、最大5万ユーロ(約708万円)まで、投資額の半分に減らすことができるようになった。その上、利益はキャピタルゲイン税が免除された。

例年10万人以上が投資するように

その結果、例年10万人以上がこれらの制度に合計10億ユーロ、1世帯当たり平均1万ユーロを投資していたのである。2017年、フランス政府は、同制度が「スタートアップの重要性を評価するようにフランス国民の考えを変革する」という目標を達成したと宣言し、奨励金の規模を縮小した。

最初の数年間は困難で、制度の詳細も洗練されなければならなかったが、そのうち軌道に乗り、現在では優れたリターンを提供している。例えば、2008年に開始されたファンドの中央値は、投資家の初期投資の5倍もの現金を投資家に還元している。2014年に開始したファンドの中央値は、12倍という驚異的なリターンを投資家に提供した。

資金調達が可能になったことで、優秀な人材が集まり、新しいスタートアップが現在、年率約20%で成長するという好循環が生まれた。優秀な創業者の流入は、逆に多くのプロフェッショナルの投資を促した。

2015年(最新の数字)には、プロのエンジェル投資家の数は8000人に達している。FCPIプログラム開始当初は半信半疑だったビベンズ氏も、日本に移住する前はその1人だった。2021年、スタートアップが調達した外部資金総額は124億ユーロ(約1兆7634円)と過去最高を記録。「フランスのハイテク・エコシステムは今やとてつもない成功に成長し、税制による政府の支援が重要な役割を果たしたと断言できる」とビベンズ氏は強調する。

フランスが反起業家的な習慣や考え方を克服して成功したのなら、日本も負けてはいられないだろう。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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