2010年代アメリカに見た「希望のSNS」が生んだ影 「1%が99%の富を保有する」不満から連帯へ
背景にあったのは、2010年代初頭のアメリカ社会に露呈した、かつてないほどの経済格差だ。2008年に発生したリーマン・ショックは10年代のアメリカ経済にも、依然、大きな影響を及ぼしていた。失業率は高止まり、非正規雇用者が増加した。特に深刻な打撃を受けたのは、若者たちだ。16歳から24歳の収入は、2009年から11 年にかけ2%近くダウンした。
ビッグテック、情報技術産業の存在が、大きく取り上げられ始めるのもこの頃だ。ビッグデータを占有した巨大プラットフォーマー企業は、驚くべき利益を上げていた。
2011年の長者番付には、ビル・ゲイツやザッカーバーグなど、IT企業のCEOが顔を揃え、デジタル資本主義の富の占有ぶりも明らかとなる。彼らにとって金融危機など、どこ吹く風であった。リーマン・ショックの原因を作った金融機関には公的資金が投入され、相変わらず高額な所得を手にする経営陣たちの姿に、多くの人々が理不尽を感じていた。
皮肉な時代の幕開け
2011年、上位1%の超富裕層の平均収入は1500万ドル以上。アメリカの収入中央値のおよそ23倍だ。人々が訴えたのは、不公平の解消、格差の是正だった。1%の超富裕層に対し、「WE ARE 99%」を合言葉にしたこの運動は、瞬く間に全米に広がる。参加者たちは、このムーブメントのドキュメンタリーを自ら製作し動画投稿サイトにアップした。SNSによって拡散される新しい運動の形がアメリカでも広がっていった。
アンダーセンはこの動きを次のように評価する。
「今ではあまり注目されていませんが、オキュパイ・ウォールストリートはある種の重要な節目となる出来事だったと思います。60年代や70年代以降には見られなかった、アメリカの左派の本当の意味での再活性化の始まりだったのです。フェイスブックやツイッター、ユーチューブが急激に成長し、アメリカの社会や文化、政治の本質に影響を与えるようになったのが、2010年代なのです」
社会の富がビッグテックに集中する中、それに対する抗議運動もまた同じテクノロジー上で広まるという、皮肉な時代の幕開け。
オバマ大統領は「この運動は、最大の金融危機を体験したアメリカ国民の気持ちを反映していると思う」と共感を示した。しかし、運動に参加し、ドキュメンタリーを制作した一人、ブライアン・チャンはこう語っている。
「オバマになって期待したけど今それが裏切られた気持ちになってる。メディアで見る国内政治談義はワシントンの政治をそのまま閉じ込めた窓のない反響室みたいな感じで、それに共鳴しない残りのアメリカの人達の声はどこに響かせればいいのか」(映画.com 2011年11月3日)
期待の高さゆえの、失望。希望が陰りを見せ始めていた。
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