「彼女の餃子は日本一うまいと思います! あれを食ったら他の餃子は食えなくなりますよ。大宮さん、ぜひうちにも遊びに来てください」
無邪気に笑う明弘さん。一方の恭子さんは在宅勤務中心の自分が家事の大半をこなす共同生活について少し不満があるようだ。
「この2年間で1回、大きな喧嘩をしました。彼は仕事から帰ってきてお風呂に入ったら、洗濯物もたたまずにゴハンが出てくるのを待っているからです。テレビを観ながら。あるとき『これが続くなら、先のことを考えさせてもらうわ!』と不満が爆発してしまいました」
恭子さんは「意外と昭和な女」を自認している。父親が風呂も食事も優先される家庭に育ち、「いつか私もお母さんのようにやりたい」と願い続けてきたからだ。しかし、実際に主婦をやってみると、「共稼ぎなのに」と家事の平等を求める気持ちもあることを知った。
明弘さんにも言い分はある。恭子さんは家事が好きそうなのでノータッチだったが、「言ってもらえれば自分はやれる」という主張だ。実際、今では食器などの洗い物や土日の掃除は担当している。
「こうしてほしいとか何も言われずに、いきなり怒られても困ります」
そのことに関しては恭子さんも反省しているようだ。高校卒業以来、人に頼らずに何でも自分でやることが当たり前になっていたと気づいた。
「最近は彼に何でも頼めるようになりました。高いところの物を下ろすとか、瓶のかたいフタを開けるとか、湿布を貼ってもらうとか、いろいろです」
「もう少し早く会えていたら」と思うけれど
親しみと信頼関係が増すにつれて、「もう少し早く明弘さんと会えていたら」という想いが頭をよぎることもある。恭子さんは子どもが欲しかったからだ。
「欲を言ったらきりがないので、不妊治療はやりません。(自然妊娠という)奇跡を狙っていますが、8割がたはあきらめています。もし子どもがいたら、絶対にスポーツをやらせていました……」
一方の明弘さんは前の結婚生活でのつらい経験もあり、子どもにはこだわっていない。仕事帰りにコンビニで缶チューハイを買って帰り、恭子さんの手作りおつまみで晩酌をすることを何よりの楽しみにしている。
晩婚さん同士にはそれぞれ長い独身時代で培った習慣がある。すぐに融合するのは難しい。しかし、美味しいものを一緒に食べながら腹を割って話すことができれば、2人の間にある壁が少しずつ溶けていく。願っても手にできないものがあることの痛みを分かち合い、和らげることもできる。そして、2人だけの新しい習慣と喜びを作っていくのだ。
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