世帯年収300万円台で東大合格、学生が感じた現実 保護者の世帯年収1150万円以上は2割にのぼる

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短い時間でいかに効率よく学力を向上させるか。ハンデと捉えられそうなアルバイトも、勉強時の集中力の維持という意味で息抜きになった。

1浪の末、見事合格をつかみ取った布施川さんは、同じような境遇にある受験生にこうエールを送る。

「あきらめないことが一番大事です。『自分はだめそうだ』と周囲は勝手に折れていきます。自分を見限ることなく、信じ続けなければ勉強に身も入りませんから」

一方で、塾や予備校に行くのもままならないという学生もいるだろう。それでも学びたい、という学生を支援する取り組みもある。無料塾だ。

学ぶ意思を尊重 無料の学習支援

NPO法人「八王子つばめ塾」(東京)は現役大学生や社会人がボランティアで講師を務める無料塾。1~2週間に1度、各科目の個別指導をしている。運営費は企業や個人からの支援や寄付などで賄っている。理事長の小宮位之(たかゆき)さんはこう語る。

週刊朝日 2023年2月3日号より

「塾に来るのは、アルバイトで学費や生活費を稼いでいる困窮世帯の高校生です。入塾の相談には親や本人が来ますが、いずれでも学生本人が『学びたい』『塾に行きたい』という思いを持っています。当塾も学生本人の意思を大事にしています」

実は小宮さんも貧困家庭で育った。高校2年生のときの世帯年収は100万円前後。親からは「高校を中退してくれないか」「進学はあきらめてくれ」と言われた。それでも学びたかったし、教師になりたかった。

そんな小宮さんはアルバイトで学費を稼ぎ、祖父母の支援も得て、何とか大学進学を果たす。だが、入学後も苦労が絶えなかったという。

「入学しても教科書が買えないなど、お金がなければ勉強できないんだ、ということを肌身で感じたんです」

教員免許を取得した後、私立高校の非常勤講師を経て映像制作の仕事に従事した。そのとき、東日本大震災が起きた。取材の過程で被災者にも会った。何かできることはないかと考え、仕事の傍ら、2012年につばめ塾を始めた。「ただより高いものはないと言いますが、困窮家庭にとって無料ほどいいものはないんです。能力もやる気も夢もあるのに、お金を理由に学ぶことをあきらめてほしくない。選択できる社会であるべきなんです」

前出の布施川さんは、昨今聞かれるようになった、生まれ育った家庭環境によって自身の人生の“当たり”“はずれ”が左右されるという意味の“親ガチャ”を引き合いにこう話した。

「親ガチャは関係ないと言いたいところですが、実際にはあると思います。でも、その言葉に甘えて自身の道を閉ざしてしまうのはもったいない。だからこそ自分を信じ続けることが大事なのです」

(本誌・秦正理)

※週刊朝日  2023年2月3日号

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