ウクライナ戦争への導線・言語問題を無視するな 少数派の言語・民族をどう扱うかが指導者の資質

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ソ連は広大な連邦国をつくったが、そこでさまざまな民族語や方言をロシア語で統一しようとした。その反動が、今やソ連崩壊後独立した国で、ロシア語がマイナー言語として差別されている原因でもある。

それも因果応報、当然の報いともいえる。現在世界には7000の言語があるというが、それがどんどん減少しているという。ソ連はあれほど広大な連邦国であったので、その内部の統一が言語問題でつまづいたのはよく理解できる。

しかし、ソ連よりずっと小さいかつてのユーゴスラビア社会主義連邦共和国は、規模はずっと小さいがソ連以上の複雑な統一をせざるをえなかった国である。イスラム教、正教会、カトリックという宗教の相違、スラブ人を中心としてイタリア人、ギリシア人、アルバニア人などさまざまな民族を抱え、言語のみならず文字においてもアルファベットとキリルという2つの文字を併用せざるをえない国であった。

それ以上に複雑なのは、ヨーロッパとアジア、そしてスラブの文化が交わることで、民族憎悪という深刻な対立問題を内部に抱え、それを解決せざるをえない国でもあったためだ。

「第2のウクライナ戦争」への恐れ

今、そのユーゴスラビアを構成していたセルビアの1自治州だったコソボで、2022年末から、セルビア人とアルバニア人の対立が再燃している。ユーゴスラビア崩壊後、これらの地域はそれぞれ独立国をつくった。しかし、対立が激しい地域はその独立国のなかで独立を主張しつつも、それが必ずしも承認されず、自治共和国として存在している地域もある。

その中でも問題は、ボスニア・ヘルツェゴビナの中の北に位置するバニャルカを首都とするスルプスカ共和国と、セルビアの南に位置するコソボだ。この2つの国の承認をめぐって東西陣営は対立している。これらの地域は国なのか、それともある国に属する自治共和国なのか。

昔は、セルボ=クロアチア語という共通語をつくり、アルファベットとキリル文字の併記でなんとか言語統一を図っていたのだが、独立以後、言語はそれぞれスロベニア語、クロアチア語、セルビア語、マケドニア語に分れ、そこにボスニア語、モンテネグロ語、アルバニア語、ハンガリー語、ルーマニア語なども加わり複雑な様相を示している。

スルプスカ共和国はセルビア語であり、それゆえボスニアの中で浮いた存在だ。コソボはアルバニア語が多数派で、セルビア人が多く住む北のミトロビッツァ地域はセルビア語だ。

これらの国をユーゴスラビアとして統一していたものは、カリスマ指導者だったチトー大統領(1892~1980年)とユーゴスラビア共産党、そしてセルボ・クロアチア語であったが、今やそのすべてが消えた。だから対立が再燃した。コソヴォをセルビアが取れば第2のウクライナ戦争が始まる。それは、ボスニア=ヘルツェゴヴィナのスルプスカ共和国も同じだ。

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