こう考えると、ウクライナにおける問題、とりわけ言語問題は同種の問題に悩む近隣諸国にとってひとごとではない。ただ、これらの国でウクライナほど対立が鮮明でないのは、ウクライナのように1つの言語を強制していないからである。
ウクライナの場合、ロシア語を話す地域はけっしてマイナーな地域ではない。ロシア語が圧倒的であるクリミアを除けば、なるほどウクライナ語とロシア語がほぼ半々である地域は東部のドンバス地域、現在ロシアが支配しているザポロージエ、ヘルソンなどを含め、その領域はさらに西の領域まで広がる。その中には、ハリコフ(ハルキフ)、オデッサ(オデーサ)、ニコラーイェエフ(ムィコラーイウ)、ザポロージエ(ザポリージャ)、ドニプロといった大都市が含まれている。
ロシアがロシア語地域をその支配下(ロシアでは解放と言っている)に入れる覚悟をしているとすれば、この地域までロシアの占領地域は拡大することになろう。
圧力をかけ続けられたロシア語話者
そうなると、ウクライナは国土のほぼ半分の土地とすべての海、そしてキエフ(キーウ)を除く大都市の多く、また重要な工場地帯を失うことになる。その意味で、西への侵攻を阻止する守りの要であるドネツク最大の要塞バフムートの攻防は大きな意味を持つのである。
ウクライナでロシア語を話す人々から見れば、2017年にラジオとテレビでロシア語放送への圧力が強まり、ロシア語地域の中学、高校でのウクライナ語の授業が強制されるようになった。
そして2019年にはウクライナ語が唯一の言語となり、企業、役所での言語がウクライナ語となったことで、ロシア語はその人口の多さにもかかわらず、特殊なマイナー言語になってしまった。違反した場合、禁固刑、罰金がともなうことで、強制力は一段と増していった。
いずれにしろ、ロシア語を学ぶことは、将来極めて不利であるということになったのである。新聞もロシア語から次第にウクライナ語へと変わり、音楽の歌詞もロシア語からウクライナ語に変わり始めた。ロシア語を話す地域の人々の怒りが爆発したのは、まさにこうしたところに原因があった。
ヨーロッパの言語問題は複雑だ。どこの国でも少数言語問題を抱えている。スペインのカタロニア問題、ベルギーのワロン語とフラマン語の問題、コーカサスの言語問題とナゴルノ・カラバフや南オセチア問題、1つひとつ挙げれば切りがないほど言語による対立問題の根は深い。
近代国民国家は、それを1つの言語による統一によってなんとか形式的に1言語で統一を果たしているが、実際にはさまざまな言語が入り乱れ、対立と独立運動の火種となっている。
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