日経平均が3万円を回復するための「3つの条件」 今後の相場を動かす「6つの要因」を検証する

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最後の3つ目は、アメリカ国内の賃金上昇圧力が収まらずインフレが長期化し、引き締め的な金融環境が続くことだ。

同国のインフレ要因は「エネルギー」「サプライチェーン」「家賃」「労働コスト」に分けることができる。このうちエネルギーについては上述のとおり終息済みである。またサプライチェーンについてもあらゆる指標が供給制約の解消を示しており、もはや物価上昇圧力を生み出す要因ではなくなっている。

また家賃については消費者物価指数の統計上はまだ加速しているものの、先行指標が大幅な低下を示していることから、年央までには低下が見込まれる状態になっている。

残るは労働コストだが、こちらは労働参加率(人口に占める働く意識のある人の割合)が高まらず、人手不足が構造的なものになりつつあるため、長期化する可能性がある。賃金インフレが収まらず、FRBの利下げ観測が修正を迫られると長期金利が上昇し、株価の下押し圧力が強まる展開が予想される。

「3つの押し上げ要因」とは?

一方、押し上げ要因は以下の3点だ。まずは中国経済だ。上述のとおり中国経済の回復はその副産物として資源高をもたらす可能性はあるものの、世界経済全体にとっては素直に朗報である。

とくに日本企業は中国経済回復による直接的な影響がおよびやすい。新型コロナ禍で先送りされた消費、設備投資が本格再開すれば、日本株の追い風になるのは言うまでもない。もちろん中国からの訪日観光客増加による企業収益の押し上げも期待される。

次はアメリカの金融緩和期待だ。言うまでもなく、上記で示した「インフレ再加速懸念が杞憂に終われば」という前提付きであるが、年内に利下げが検討される可能性はある。

「実際」の利下げが年内に実施されなかったとしても、FRB高官のハト派的な発言が金融市場参加者に届けば、長期金利は低下が見込まれ、株価の追い風となる。利上げ停止後しばらくの間、FRB高官はハト派発言を自重するとみられるが、GDP成長率がマイナスになるなど、急激な減速を示す経済指標が増加すれば、FRB高官の態度は変化するとみられる。

最後に注目したいのは、現在シリコンサイクルの下降局面に位置している半導体市況の好転である。半導体市況は片道1~3年程度で上昇・下降を繰り返すことがよく知られているが、現在はノートパソコンやスマートフォンの需要減衰などを背景に下降局面にあり、半導体関連の受注は減少方向にある。

しかしながら日本、台湾、韓国といった電子部品の生産集積地のマクロ統計を確認すると、それらの「在庫」が減少に向かっており、製品需給の緩みが解消しつつある様子が窺える。

欧米の景気減速が長引くなどして需要が停滞すれば、シリコンサイクルの上昇局面入りは遅れてしまう恐れはある。だが、過去の経験則に従えば、年央には底打ちの気配が強まり、上昇サイクル入りの期待が高まる。株式市場では市況好転が大いに好感されるだろう。

中国経済の回復、アメリカの金融緩和期待、シリコンサイクルの反転上昇が重なれば、日経平均株価は3万円に向けて上昇すると期待される。もちろん、上述のリスク要因がどれほど強く発現するか、注視することも重要だ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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