「正職員に嫌われたら終わり」非正規公務員の苦悩 「2023年問題」自治体7割強で雇い止めの可能性

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前述した美幸さんは、キャリアコンサルタントや産業カウンセラーなどいくつもの資格を自費で取得し、研修などにも参加してスキルを磨き続けている。在留期限の迫る外国人や生活困窮者が窓口を訪れた時は、人脈や経験を駆使し、就職相談の域を超えてサポートしてきた。

非正規公務員の多くは、専門性を生かして市民の役に立つのだという使命感とやりがいを支えに、仕事を続けている。しかし「あなたはいつでも替えが利く」と言わんばかりの公募というシステムや、低賃金での処遇に「自分は社会から評価されていないと感じ、誇りを傷つけられる仲間も多いのです」。

このままでは「意欲の低い職員」だけが残ってしまう

コロナ禍で社会支える『非正規公務員』悲惨な待遇」に登場した元婦人相談員の藍野美佳さんは現在、正職員として女性支援の仕事に就いている。非正規時代はトリプルワークせざるを得なかった藍野さんだが、現在は「労働に見合った賃金を得られて職場環境も良く、満足しています」と笑顔を見せた。

また藍野さんは「『2023年問題』は、実は3年前から水面下で進行してきたのではないか」とも予想する。非正規職員はスキルと意欲が高い人ほど、先行きの見えない仕事に失望し、どんどん職場を去っているのではないか、というのだ。

美幸さんも「このままでは、最終的に残るのは『給料分の仕事だけすればいい』という意欲の低い職員ばかり、という状況に陥りかねない。それでは日本のセーフティネットはボロボロになってしまいます」と危惧する。

例えば美幸さんの勤めるハローワークには、企業や官公庁を定年退職した男性の任用職員もいる。しかし彼らの多くは、失業を重ねる求職者の苦しみや背景を理解しようとせず、支援の基本である傾聴や共感の姿勢も見られない。「あなたのやる気が足りない」「努力不足だ」などと自己責任論を振りかざして説教し、求職者を泣かせたり怒らせたりすることもしばしばだという。

藍野さんも「非正規公務員の待遇が改善されず、経験豊富で優秀な人材が流出することは、住民の不利益以外の何物でもありません」と強調した。

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