「緊急避妊薬」日本の扱いが世界から遅れている訳 DVやレイプから女性の体を守るには必要だが…
何より、デートDVや夫婦間のDV、そしてレイプなどの性犯罪に遭った場合は、女性の体を守るためにも緊急避妊薬を使わなければならない。しかし、今の状況では入手しにくく、服用の機会を逃してしまう恐れがある。
「実際、うちのクリニックにもレイプなどの性犯罪に遭った方が緊急避妊薬を求めて受診されます。もちろん、証拠を残すためにも支援を受けるためにも『性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター』に行くことをすすめていますが、いずれにしても緊急避妊薬は早急に必要となります」(宋さん)
では、緊急避妊薬をOTC化するには、どのような工夫が必要だろうか。「もちろん、ただ薬局で販売して終わりではなく、医薬連携で、薬局では薬剤師が患者さんの話を聞いたうえでしっかり説明もし、必要に応じて医療につなげることが必要です」と宋さんは話す。
「例えば、性交から72時間以内であれば緊急避妊薬が最適です。でも、72時間を過ぎていたら120時間以内にミレーナ(※)を入れる方法がある、月経周期によっては低用量ピルを始めたほうがいい場合もある、繰り返し緊急避妊薬を必要としているなら普段から低用量ピルやミレーナを使ったほうがいい、すでに妊娠しているかもしれない場合は緊急避妊薬を内服せずに産婦人科を受診する、などを薬剤師さんから説明していただけたら。薬局と産婦人科で連携するのが最もよいと思います」(宋さん)
※子宮内避妊システムIUS(ミレーナ):子宮内に設置するT字型の小さな器具。子宮内で黄体ホルモンを5年ほど持続的に出し、子宮内膜を薄くすることで、月経痛を軽くし月経痛を減らし、受精や着床も妨げる。取り出せば月経が再開し、妊娠も可能。
性教育も緊急避妊薬も不可欠
もう1つ、日本で根強いのが「日本は性教育が遅れているから、緊急避妊薬を薬局で扱うことに不安を感じる」という意見だ。
確かに、日本ではいまだ中学校学習指導要領においても、性交には触れないこととする「はどめ規定」があるため、子どもたちに具体的に教えることができない。これはつまり、望まぬ妊娠や性病の予防、性暴力について詳細に学ぶ機会がないということだ。
「これは両方を同時に改善していけばいいだけのこと。本来なら子どもの頃から体や生殖の仕組みだけでなく、性の多様性、ジェンダー、自己決定権、人権などについて総合的に学ぶ『包括的性教育』を受け、『セクシャル リプロダクティブヘルス ライツ(性と生殖に関する健康と権利)』についても知っておくべきなのです」(宋さん)
「セクシャル リプロダクティブヘルス ライツ」とは、女性が自分の性のあり方――妊娠する・しない、子どもを産む・産まない、子どもを何人産むか、いつ産むかなどを自分で決める権利をいう。この権利を守るためにも、緊急避妊薬へのアクセスを容易にすることは重要だ。宋さんは言う。
「緊急避妊薬を求めて受診される女性のなかには、妊娠を望んでいないのに夫に同意なく避妊なしの性交をされた人もいます。カップルでも同様のケースがあります。夫婦やカップル間であっても、それは性暴力です。しかし、その事実に気づいていない人もいるんです。これはまだ『セクシャル リプロダクティブヘルス ライツ』がよく知られていないため。誰とどんな付き合いをするかは個人の選択ですが、それが性暴力であることは伝えることにしています」
現在、政府は緊急避妊薬をスイッチOTC化するかどうかを検討中で、昨年12月27日から今月31日までパブリックコメント(「緊急避妊薬のスイッチOTC化に係る検討会議での議論」に関する御意見)を募集している。その結果を受けて、次回以降の検討会議で再度議論するとしている。
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