都市から地方に移住するという暮らし方の分散、1人ひとりがスマートフォンで情報発信するメディアの分散、コロナ禍で密を回避するための空間の分散など、あちこちで「分散」の動きが進んでいるように感じます。
トイレにおいても同様の動きがあります。これまでは、車いすで利用できる広めのトイレの中に多くの機能を盛り込み、あらゆるニーズに応えることを目指してきました。
手すり、おむつ替え台、大型ベッド、ベビーチェア、人工肛門や人口膀胱を有する方のためのオストメイト用設備など、一言でいうとオールインワンのトイレです。ですが、この取り組みが時代の変化とともに新たな課題を生み出し、トイレの機能分散が求められています。
本稿では、バリアフリーを切り口にトイレの変化と現在の課題、これから目指すべき方向について考えてみたいと思います。
国内におけるトイレのバリアフリー
東洋大学名誉教授の髙橋儀平氏によると、車いす用トイレが広まり始めたのは、今から約60年前の東京オリンピックの頃のようです。
「日本で車いす使用者用公共トイレが始まったのは定かではないが、1964年の東京オリンピックでの改修頃からではないか。当時、練習のために都内スポーツ施設のバリアフリー改修が行われ、仮設でもあったが、車いす使用者用のトイレが多く生まれた。」(出典:「ノーマライゼーション 障害者の福祉」2015年4月号)
やはり、国際的な大規模イベントがあるとそれをきっかけに社会インフラの改善は進むのですね。
1975年には国際連合が障害者権利宣言を採択し、その宣言の趣旨に基づいて1981年を国際障害者年に指定します。国内では国際的な動きを踏まえて、まずは「身体障害者の利用を配慮した建築設計標準(1982年)」「公共交通ターミナルにおける身体障害者用施設設備ガイドライン(1983年)」が作成されます。
そして、「高齢者、身体障害者が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(通称:ハートビル法)(1994年)」、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(通称:交通バリアフリー法)(2000年)」が制定されます。
さらには、これら2つの法律が合わさって、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(通称:バリアフリー法)(2006年)」になるのです。
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