苦しい時、「好きな仕事」が助けてくれる 世界が評価する漫画家の知られざる苦悩

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高浜:なかったですね(笑)。収入が得られなくても、アルバイトをしながら漫画を描いていこうと思っていました。最初に課題を作ると、先が見えないからつらくなってしまいますけど、ゴールがあったら何をするかが自然と決まってきます。実はそれ、ビジネス書で読んだんですよ(笑)。ゴールを決めれば、いつまでに何をするというのが自然に決まるから、あとはなるべく計画を細分化してToDoリストを作って、こなしていって、という内容でした。うなぎ屋の裏で読んでました。

塩野:うなぎ屋の裏(笑)。今は漫画の収入で生活ができるようになったんですか?

高浜:はい。その本のおかげです(笑)。私、もともと物欲が全然なかったんですね。それで頑張りがきかなかったところもあります。でも、去年ぐらいから物欲が出てきました。

物欲も創作のモチベーションに

塩野:何かきっかけがあったのですか?

高浜:新作の漫画の中でも出そうと思っていますが、19世紀末のマットエナメルのブローチがほしくて。それが107万円で売られていたのですが、一発でボンって買えるほどにはまだ貯金がないんですね。分割で契約しようとしたら、家族に「そのぐらい買える余裕がでてきたら現金で買おうよ」って言われたんです。そういうふうに、だんだん値段の高いものをほしくなることが多くなってきたわけです。だから「稼いでみようかな」と。

最新刊は幕末の遊郭を描いた『蝶のみちゆき』(上の書影をクリックするとamazonのサイトにジャンプします)

塩野:新たなモチベーションですね。

高浜:そう、マンションや車もほしいんですよ。

塩野:アーティストと言うよりは、どんどん普通になっていますよ(笑)。東京は5年ぶりに来られたとのことですが、東京はあまり好きじゃないですか?

高浜:ちょうど大震災の日に東京にいたんです。その記憶がまだあって。怖すぎて、お腹が痛くなって救急車で運ばれたんですよ。地震が発生した日にホテルでテレビを見ていたら、原発が爆発する映像が映ったんですね。それで、たぶん恐怖のせいだと思うんですが、無意識にすごい量のご飯を詰め込み続けたみたいなんです。次の日、もう脂汗が出るぐらいお腹痛くなって。

塩野:精神的にというよりは、物理的な理由による腹痛なのでは……。

高浜:レントゲン撮影してもらったら、「物がすごい詰まっています」って。で、その時にもう本当に怖いと思って。それでしばらく来なかったんです。きっかけもなかったのですが。

塩野:今はお腹、大丈夫ですか?

高浜:もう食べすぎないようにしています。入らない量を詰め込むというのは、結構つらいことなんですね。

塩野:ダメですよ。お腹がびっくりしちゃいますよ。

高浜:ただ、インド医学のアーユルヴェーダによると、人間はストレスを感じると、食べ物の重さでバランスを取ろうとするそうなんです。

塩野:(笑)。バランス以上に食べてしまったんじゃないですか。今日は、楽しいお話をいろいろお聞かせいただいてありがとうございました。
 

(構成:圓岡志麻、今 祥雄)

塩野 誠 経営共創基盤(IGPI)共同経営者/マネージングディレクター JBIC IG Partners 代表取締役 CIO

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しおの まこと / Makoto Shiono

国内外の企業への戦略コンサルティング、M&Aアドバイザリー業務に従事。各国でのデジタルテクノロジーと政府の動向について調査し、欧州、ロシアで企業投資を行う。著書に『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』(NewsPicksパブリッシング)、『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』(KADOKAWA)等、多数。

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