苦しい時、「好きな仕事」が助けてくれる 世界が評価する漫画家の知られざる苦悩

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高浜:そうですね。私にとっても、作品の幅を広げるきっかけになっています。今まで私の作品を読んでないタイプの人たち、なるべく幅広い層に読んでもらえそうで、かつ、でき上がった時に海外でも翻訳しやすい内容を目指しているんです。

塩野:今、すごくハードルが上がりましたね。

高浜:日本の歴史、たとえば忠臣蔵などは、作品の前提となっている思想自体が海外の人々のそれとかけ離れているので、外国語への翻訳が相当難しいらしいです。そもそも、なるべく複数の国で出版してもらえるような内容というのが私の作品のベースなんです。初期の頃から多言語で出してもらっていたおかげで、国によってどんな内容が受けるか、というあんばいがわかってきましたので。

今回、パリ万博をテーマにしたのもそういう理由からです。ちょうど1878年の万博は、エジソンが電球を発明したり、蓄音機ができたり、いちばん世界が変わった時期だから、みんなが楽しめるんじゃないかと思います。

塩野: 先ほど「人がやさぐれている」というお話もありましたが、今は世界中が困難に直面している時代ですよね。すごく残忍なことが起きていたり……。そうした中で、漫画家やアーティストの役割をどのように考えていらっしゃいますか?

心に留まっている感情を、読み手に分け与えるように

高浜:フランスの風刺専門の週刊紙Charlie Hebdo(シャルリー・エブド)のジャーナリストが殺されましたよね。テロはよくない。まず、それは大前提です。すごく大変なことだし、遺族の悲しみは本当にはかりしれません。しかし、一方で「宗教や価値観の違う人たちが自分の存在をかけて大事にしている部分に踏み込むことが本当にアートなのか、簡単には答えを出せない」とも、私はちょっと思ったんです。

江戸時代の黄表紙を一例として、漫画は楽しみのために読まれ始めたのが最初だと思うんですね。心の問題も含めて、誰かの傷をえぐる必要はなくて、疲れたときなどに読んで、リフレッシュできるものを提供するぐらいでもいいじゃないかと。だから、漫画家としては、心の中に留まっている感情を、読み手の人に分け与えるぐらいの感じでいいのではないかと思います。それ以上のことは、ほかの活動のほうが向いている気がします。

塩野:そうですね。でも、漫画で読んだことって本当に心に残るから、影響力がすごくありますよね。

高浜:漫画を描くうえでずっと思っていることがあります。NHKで、以前見たんですけど、日本は古代、それこそ石器時代からすごくレアなケースを歩んでいるそうなんです。民族同士は、戦いを繰り広げて勝ったほうが勢力を伸ばしていくのが普通ですが、日本は北の人たちと南の人たちが話し合ってまとまった国だそうです。

和解のあり方や、次のステージへのステップの方法は、やっぱり新しい世紀になっていくごとにどんどん進化していくべきで、平和的にみんながお互い納得できるベストな方法を選択して行かなければならない。そういう方法が、考えに考えて意見を出し合ったら必ずあると思うんです。

塩野:それを漫画で提供していくということでしょうか?

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