高浜:だから最初から、「今は納得するものが作れないけど、60歳ぐらいになった時にこういうのを描きたい」とか、「10巻、15巻ぐらいの作品を何本か書いておきたい」とか、今、たとえば60ぐらいの人で憧れの人がいるとしたら、その人を目標にするなど、ゴールを最初に見ておけば、迷うことがないんですよね。
塩野:先生はいつ頃そう思われたんですか?
高浜:二十歳(はたち)ぐらいです。
塩野:もう。(笑)早いですね。でも描き続けることって大変ですよね。才能が枯れたらどうしようというのはなくて、60歳になっても描きたい、描けると思えたんですね?
自分を客観的に見ることができれば迷いがなくなる
高浜:才能があるかないとか、描けなくなったらという悩みは若い時にありましたけど、実は、そういうことはあんまり起こらないんですよね。年齢を重ねていろいろなことを経験したほうが、描けることが増えてくるからネタ切れは考えなくてもいい気がしますね。
塩野:『イエローバックス』は初期の作品なのに、この『最後の女たち』も老人を描いている作品なんですよね。すごくリアルで「あなた、老人になったことあるんですか?」と思ったんですよ。たとえば最後に動悸が出て「ドキドキする」って言いますよね。本当にそうなんだろうな、と思わせるシーンですよね。
高浜:筑波山の近くに住んでいて、近所にお年寄りが多かったので、よく観察できたんです。あとは、うつがひどかった時期があったんです。うつになると、考え方が老人っぽくなるんですよ。若い人たちが楽しそうにしていても、遠くから見ているような気分でいるわけです。
塩野:老人を一度経験されたんですね。
高浜:そう。お墓を物色したりもしてましたからね。石材屋さんに行ったり……。
塩野:(笑)。そこまで準備してらしたんですね。そうすると、若い方々には、周りをあまり気にするなということでしょうか。
高浜:うつ病の回復のステップで学んだ、「変えられないものは受け入れる落ち着きを。変えられるものは変えていく勇気を。そして2つのものを見わける賢さを」というフレーズをいつも指標にしています。たとえば自分の能力、評価や実力はもう受け入れるしかない。でも、スキルはこれから勉強して習得していくのだから、変えていけることですよね。そういうことを自分で客観的に見られたら何も迷うことがないわけです。
塩野:なるほどですね。ぶれないということで言えば、先生の場合は、たとえばうなぎ屋で働いてるという選択も、当時なかったわけですよね。
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