「もしかして、轟木さん、林田さん、そして、世津子さんは三角関係だったんじゃないか、と……」
「ま、まさか……」
流は息を呑んだ。
「ないと言い切れますか?」
玲司の言葉に妙な凄みがある。特に流はこういった男女の闇というか、粘着力のある話が苦手である。額から汗をにじませることしかできないでいた。
玲司が話を続ける。
「もしかして、林田さんは、轟木さんに勝手に世津子さんに会われては困る秘密があったんじゃないでしょうか?」
「ひ、秘密?」
「はい」
「……そ、それは?」
「それは……」
カランコロロン
「いらっしゃ……」
(あ……)
カウベルを響かせて入ってきた客を見て、玲司は息を呑んだ。その人物が、今しがたまで噂していたポロンドロンの轟木本人だったからである。
「……いませ」
かろうじて動揺を隠し、営業スマイルで轟木を迎え入れた。
轟木は灰色のブランド物のスーツを着ていた。ひょろりと背の高い林田に比べると、横に広く、恰幅がいい。髪もテレビで見るときと変わらず、きっちりとセットされている。
(もっと、憔悴しきっているのかと思ったけど……)
玲司は林田の話から、髪は乱れ、ボロボロの格好で、下手すると片手に一升瓶でも抱えて常に酒を浴びるように飲んでいる轟木を想像していた。
玲司が席に案内しようとすると、轟木はそれを手で制し、勝手にカウンター席まで移動して腰を下ろすと、
「クリームソーダ」
と、目の前に立っている流に言い放った。
(クリームソーダ?)
これまた、玲司の想像とは異なっていた。
「かしこまりました」
そう言って、頭を下げて、流は厨房に消えた。
「ユカリさんは?」
消えぎわに、チラと玲司に目配せをしたが、その目が、
(なんか、意外と普通だな……)
と、訴えていた。
ゆっくりと夕闇が迫っている。
陽はまだ完全に沈みきったわけではなかったが、空はすでに紺色に染まりはじめている。
紅葉の赤と紺色の空。
物悲しく、美しい……
店内は暗くなりはじめたが、それはそれで趣がある。
ポツリ、ポツリと客が会計をすませて去っていく。
その間、轟木はただ黙ってクリームソーダをすすりながら、窓の外をじっと見つめていた。
そんな轟木が、ふと、
「ユカリさんは?」
と、玲司に話しかけてきた。
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