母を「守らな」20代息子が介護中心生活を送る事情 全存在で「ヤングケアラー」の役割を引き受けて

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ヤングケアラーのリアルとは?(写真はイメージです。写真:mits / PIXTA)
「ヤングケアラー」とは、何らかの困難を抱えた家族を心配し気づかい、そこから逃れることができない子どもたちのこと。
大阪・西成地区をはじめ、子育てや看護の現場でのフィールドワークで知られる大阪大学教授の村上靖彦さん(専門は現象学)は、そのように考えていると言います。
身体的な介護や家事労働に時間を取られ、学校に通えない子どもといったイメージが固定化しがちですが、実際には、「目で見てわかる介護・家事」をしていないヤングケラーもいます。
村上さんは、こうした社会一般のイメージと現実との乖離を危惧し、ヤングケアラー経験者へのインタビューを重ねてきました。そして、その「語り」を丁寧に分析し、当事者が抱える困難の本質、その多様さを掘り下げています。
ここでは、新刊『「ヤングケアラー」とは誰か 家族を“気づかう”子どもたちの孤立』から一部抜粋・改変。中学生の頃から現在に至ってもなお、くも膜下出血の後遺症で寝たきりの母親と認知症が進んだ祖母の介護を続ける20代のけいたさんのケースを紹介します。

けいたさんとの出会い

けいたさん:まず僕がケアをしだしたのがお母さんで、僕が中学校上がってすぐ、4月の23日かなんかに、くも膜下出血で倒れて。そのときは僕、学校行ってたんで知らなくて、家にお父さんとお姉ちゃんがたまたまおって、すぐ気づいて、そのまま病院のほうに行ったんですけど。
そのときは全然なんも、学校で知らされて、僕自身、最初、くも膜下って何か分からんかって、その病院に向かってるときに、こういう病気でみたいなことなんで命に関わる可能性があるっていうのを聞かされて、まず、その時点で頭真っ白になって。
そこから、僕がもともとお母さんっ子やったんで、それ聞いたときは、やっぱずっと一緒におって、寝るときも一緒でしたし、同じ階でずっと寝てたんで、そこに気づいてあげれなかったっていうのが一番、僕のなかででかくて。
昔は、お姉ちゃんとお母さんとは全然、仲よかったんですけど、お父さんとお兄ちゃん〔と〕はほんまに全然仲よくなくて、ほんまにお父さんとあんまり会話することがなかったっていうのもあって、いろいろ複雑っていうか、あれなんですけど、言ったら夫婦げんかしたりとか、お兄ちゃんとお母さんがけんかしたりとか、そういうのがめっちゃあって。
僕からしたらお父さんが、そういうのを見てて、そんなに好きじゃなかったっていうのもあるんで、そこで『守らな』って思ってた部分で、そのくも膜下で倒れたっていうのを知ったんで、ずっと一緒におったのに気づかれへんかったっていう申し訳なさと、やっぱそういうのが今でもって言ったらあれですけど、今でも全然あって。

20代の男性けいたさんは現在、寝たきりの母親と、認知症が進んだ祖母の介護を献身的に行っている。全存在でヤングケアラーの役割を引き受けている――そんな人だ。介護に生活時間の多くを割いているがゆえに、他の活動が極めて難しくなっているという点では、社会でのヤングケアラーのイメージに近い存在だろう。

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