「戦力外通告」受けたプロ野球選手"逆転の人生" 寺田光輝、大嶋匠、島孝明が向かう"次は勝つ道"
3年目の春季キャンプは、前年のフェニックス・リーグや台湾遠征の成果が認められ、初の一軍帯同が決まった。今年こそはと思った矢先、第一次石垣島キャンプでまた怪しくなった。うまく投げられなくなってしまったのだ。
ロッテ球団はこうした島の状況から支配下登録を外し、育成での再契約を打診。しかし、島はこの申し出を辞退し引退を決意。球団からお払い箱になったのではなく自ら辞めて、22歳で大学に入学したのだ。こんなプロ野球選手は、長い歴史上、初めてのことだった。
当時、一軍ピッチングコーチに就任したばかりだった吉井理人(現千葉ロッテ監督)に、島について聞いた。
「島はいいものを持っていたんで、何かのきっかけさえ掴めば……と思って見ていました。2019年のフェニックス・リーグのときに相談を受けました。ひとつの案として、育成契約して1年間給料を貰いながら次への準備をするのもありだぞと伝えたんですが、彼はきちんと踏ん切りをつけたいと言い、男らしいと思いました。勉強したいと強い意志を見せる以上、島にとってチャンスなんだと思って快く送り出しました。
島は、しっかり自分の考え方を持って行動できる人間です。とにかく、球団に所属している以上、選手のメンタル面でのコントロールも我々の仕事ですので、島には責任がなく、指導者側の責任です」
こうした吉井の言葉を、島はどう受け止めたのだろうか。
「ここで育成になると1年で切られるかもしれない。その先に未来を感じてなければ自分のしたいことをしたほうがいいかなと、スパッと割り切って考える自分がいました」
島は自分の心にしっかり問い詰め、未来を考えて、即断即決のごとく終止符を打った。2019年12月7日、ロッテ球団は島孝明が現役引退すると発表した。その後、島は國學院大學が元プロ野球選手を対象に設けた『セカンドキャリア特別選考入試』を受け、見事合格。現在は國學院大学人間開発学部の学生だ。
「野球のデータを分析する活動をしているんですけど、ビッグデータをエクセルで処理するには果てしなく時間がかかってしまうため、プログラミングを使ってやっています」
近代プロ野球において、ボールの回転数や打球の速度、角度を計測するなど、あらゆる場面のデータ化と傾向の分析は、もはや“して当たり前”のことだ。客観的なデータを用いることで、データを言語化し、さまざまな事象に対して選手の能力が可視化できるようになれば、競技力向上が見込めるだろう。島にとってイップスで苦しんだ3年間の経験は今、大きな財産となっている。
現在、プロ野球をはじめ多くのスポーツでは、科学的な分析を元にした練習方法や戦術が取られるようになっている。だが、そうした分析をする者が実際に選手として経験を積んだ人間であれば、これほど心強いことはない。島のようなプロ野球経験者が意欲的に研究する時代になれば、日本のプロ野球はさらに発展するだろうし、選手経験のある研究者は必要不可欠な存在となってくるだろう。
島が研究者となって、いずれ野球界に戻ってくる日もそう遠くなさそうだ。
元プロ野球選手として「初の医師」を目指す男
「医学部に入ったからといって別に医師である父からの助言もなく、ただ『学費はどうなってんの?』とだけ。今のところ全部自分でやっています。それが使命だと思っていますので。金持ちだから行けたんかとだけは絶対に言われたくない。親からは『いつでも言ってこい。貸したるで』と言われるんですが、それでは意味がないと」
自力でやるからこそ意味がある。横浜DeNAベイスターズの元投手で、現在医学生の寺田光輝が野球で教わったことだ。
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