自分に正直に生き始めると、人生が変わると西村さんはいう。
日本人であることも、同性愛者であることも、男らしさの型にハマらない自分も。隠したり卑下したりするのではなく、まずは自分自身が受け入れ、個性として表現できたら、人間関係も仕事も生活もすべては上向いていくのだと。
本当の幸せは、本当の自分を知ることから始まる
「自分の人生を生きるとは自分でハンドルを握ることですよね。そのためには、世間体や常識など実態のないものに振り回されず、まず、自分の本心や個性をよくよく見つめることが必要だと思います。私のようにLGBTQの当事者ではなくとも、自分の本心を無視していたり、無意識に自分を抑えて生きている人も多いのではないでしょうか」
たしかに、かつての西村さんの悩みは決して特別なものではない。セクシャリティにおいて多数派側にいる人も、自分にまったくうそをつかず生きていると言い切れる人は少ないのではないか。
「男だから、女だから、こうあるべき」「会社員として」「父親とは、母親とは」……。従来の価値基準に自分を閉じ込め、人生を楽しめないどころか、自らの内に眠っている可能性を潰している人もきっと少なくない。
「自分を知る、本心を理解するって、実は想像以上に時間も労力もかかりますよね。私もそうでした。
たとえば、20代の頃は、同性愛者の自分はゲイだと思っていたんです。でも、一般的なゲイという枠組みにはハマらないとも感じていて。もっと突き詰めて思考したら違った。私は『男でも女でもある』と感じているし、同時に『男でも女でもない』とも思っています。以前の私だったら、男でも女でもない自分に劣等感を持っていたのですが、今はこの自分に誇りを持てるようになりました。あらゆる固定観念を取り払い、時間をかけて、やっと自分というものを理解できるようになったんです」
ほかでもない自分が自分を深く理解すると、自分の価値も本気で信じられるようになると西村さんはいう。だから、思い切って生きられるようになるし、そこに本物の仲間や応援してくれる人も現れる。そして、本当の幸せは、本当の自分を知ることから始まるのだと。
ようやく暗黒期という長いトンネルを抜け出しつつあった西村さんには、さらに刺激的でカラフルな人生の第二章が待っていた。
(この記事の後編へ続く)
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