しかし、そんな西村さんに小さな転機が訪れる。当時、2007年にミスユニバース世界大会に日本代表として参加した森理世さんがグランプリを獲得したのだ。切長の瞳に艶やかな黒髪といった、日本人として伝統的な美貌を持ちながら、誰にも引けをとらない堂々としたパフォーマンスとスピーチで世界を虜にした。彼女に、西村さんは心揺さぶられた。
「彼女は“日本人であること、自分であること”を堂々と表現して、それが評価されていました。人種のせいで認めてもらえないと思っていた私には、目から鱗でした。その後も彼女の活動を追ったり、関連書を読んだりするうちに気づき始めたんです。もしかして、自分の人生がうまくいかないのは、人種や同性愛の問題ではないのかもしれないと」
世界中に差別は存在するけれど、それが世界のすべてじゃない。美しさも個性も本来は多様なものであり、それを認めてくれる場所はきっとあるはずだ。
「自分は劣った人間ではなく、ユニークな存在である」
心の向きが変わった西村さんは、少しずつ行動的になっていく。まずは、ボストンの教会にあったゲイコミュニティに参加。程なくして、初めてリアルな同性愛者の友達ができた。その友人たちと世界各国を旅するようになり、旅先のスペインでは、生涯の親友にも出会えたという。
本当の自分で付き合える友達ができたことで、西村さんの内側には、これまでにない自信と安心感が芽生え、さらに積極的に動けるように。
ボストンの短大を卒業すると、N.Y.の名門パーソンズ美術大学に入学。美術を学ぶ傍ら、動き出すキッカケとなったミスユニバースのメイクを手がけたメイクアップアーティストのもとを訪ね、そのアシスタントを志願して仕事も始めた。
自力で動き出し、さまざまな出会いと経験を重ねるうちに、西村さんは確信した。
「自分は劣等な人間ではなく、ユニークな存在である」と。
「それに、敬愛する友人たちは同性愛者であることを隠さずに、堂々と生きている。自由に自分らしく生きながら、多くの仲間や愛情にも恵まれていて。その姿は、眩しいほどに輝いていました。自分もそうなれるはずだなと自然に思えるようになりました。
N.Y.では、毎年恒例の大規模なゲイパレードに参加したんですけど、ディズニーやアップルなど、世界の名だたる企業がLGBTQの権利を応援してくれていることも知りました。日本では絶対にありえないと思っていた、“ありのままの自分で生きられる世界”が現実にあったんです」
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