フィリピンの謎「モノづくり苦手」でも急成長の訳 マルコス政権下では「輸出主導型の工業化」に失敗

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フィリピンの産業構造の最大の特徴は、国内総生産における産業別シェアで第3次産業(サービス業)が占める割合が圧倒的に高いことだ。2016年の世界銀行統計によると、フィリピンのGDPに占める3次産業の比率は60%で、2次産業(工業、建設業など)30%、1次産業(農林水産業)10%を大きく上回っている。

「モノづくりの国」といわれてきた日本も、GDPに占めるサービス産業の比率は2014年に7割を超えた。アメリカなどは8割を超えている。しかし、途上国において、このサービス産業の比率の高さは異例であり、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国を見渡しても、フィリピンのGDPに占めるサービス産業の比率はトップのシンガポール(74%)に次ぐ高さだ。

サービス産業の興盛は、裏返せば工業や農林水産業の不振を反映している。発展途上国の産業構造としてフィリピンのサービス産業比率の高さは「危うさ」として論じられることがこれまでは多かった。

産業構造の発展理論からすれば、第1次産業から第2次産業に進み、その後に第3次産業が主流となっていくのが常道ゆえに、フィリピンにおいては工業重視、とくに自動車産業の育成などに力を入れるべきだとの指摘が以前からある。フィリピンの2次産業は電機・電子を中心に組み立て産業が発展してきた反面、素材を作る産業が伸びておらず、素材供給力が弱いともいわれてきた。

職人気質の人が少ない

フィリピン現代史を振り返ると、マルコス独裁政権下での「輸出主導型の工業化」の失敗例があるように、フィリピン工業の競争力は近隣諸国より劣っているといわざるをえないだろう。そもそもフィリピン人は、手先は決して不器用な人たちではないが、「モノづくり」に関しては、日本はもとより、韓国や台湾、ベトナムなどと比べると不向きな印象がある。

庶民でも平均的日本人に比べれば、はるかに達者な英語を話すことで、外国企業家には歓迎される。国民的性格も陽気で明るく、辛抱強い。しかし、職人気質の人は少ない国だ。日本のように旋盤をミリ以下の単位で正確に削るようなこだわりを見せる労働者は極めてまれだ。まして、市場や付加価値までを考えるような職人スタッフを集めるのは至難となる国だ。

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