東京駅の展覧会「鉄道と美術の150年」の要注目点 館長が教える見所、絵画の説明文も見逃せない
最後に現代の作品を示してくれた。この絵には鉄道は出てこない。芸術家集団Chim↑Pom(当時)が2011年、福島の原発事故の直後に渋谷駅構内に無断設置し、世間の話題となった『LEVEL 7 feat.「明日の神話」』である。
岡本太郎が第五福竜丸の被曝事件を取材した作品に、寄り添うように無断で設置され警察に押収されたが、不起訴になって返却された作品だ。
「Chim↑Pomが考えたのは、どうしたら作品でメッセージを発することができるかということでしょう。岡本太郎へのオマージュでありながら、まさに岡本太郎がしようとしたことを現代のアーティストがやったことに意味がある。だから岡本太郎記念館も価値を認め、この作品を所蔵しているのだと思います」冨田館長は、そうおすすめしてくれた。
東京駅という地の利を生かせば、この展覧会に出展されたいくつかの作品を、散歩がてら観に行けるのも、東京ステーションギャラリーの魅力だ。
外に出れば「鉄道の父」と知られる『井上勝像』を観ることができる。作者は東洋のロダンと呼ばれた朝倉文夫だ。彼は初代鉄道院総裁である後藤新平の像も手がけている。構内に戻れば、京葉線に続く通路に、朝倉文夫の彫塑塾に通っていた福沢一郎原作の世界最大級のステンドグラス『天地創造』を楽しめるだろう。
「ぜひ、これは見てほしい」と冨田館長に強く勧められたのは京葉線改札口外の地下通路に設置された『RTOレリーフ』である。
第二次世界大戦終結後、日本を占領下に置いた連合国軍が日本全国200カ所以上の主要駅に鉄道輸送事務室・通称RTOという施設を設けた。東京駅にもRTO専用待合室を作るよう命じられたとき、建築家・中村順平が若い彫刻家たちと作った、日本の名所と日本地図のレリーフは賞賛とともに迎えられたが、時代が変わりRTOも国鉄に返還され、1974年にはすべて壁板で覆われてしまった。
そこからさらに30年以上がたち、2007年にほぼ無傷で蘇った。歴史に翻弄されたレリーフを彫った若き彫刻家たちが、のちに有名になっているのも、見どころだそうだ。
絵画の説明文にも要注目
展示会を回りながらとても気になっていたことがあった。絵とともに展示されているキャッチコピーと説明文の一つひとつがどれもこれも読み逃したくないほどに面白く魅力的だったことだ。
誰が書いたのか聞いてみると、冨田館長は嬉しそうに教えてくれた。「あれは全部書いた人が違うのですよ。その作品を選んだ学芸員が自ら全力でおすすめポイントを書いているのです」。
自分が推している作品だから、自分の言葉で説明ができる。
冨田館長は続ける。「総力戦は1+1=2ではない相乗効果を生んでくれます。実は総力戦をしたのは2回目で、前回は『東京駅100年の記憶』のときだったのですよ」。
次に東京ステーションギャラリーで鉄道を扱うのはいつになるのだろうか。そのときの総力戦を楽しみにしながらも、これからの冨田館長の楽しいたくらみを享受しに、東京ステーションギャラリーに通ってしまうことを予感してしまうのである。
※金曜日は20:00まで開館
※入館は閉館30分前まで
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