「silent」規格外のヒットがもたらす4つの影響 驚異的な配信再生数で試されるテレビ業界の今後

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しかし、「silent」が記録的な配信再生数を叩き出したことで、メディアに「これを報じよう」というムードが生まれました。多くのメディアが「視聴率は奮わないけど配信再生数が多いから大ヒット」とみなして報じたことで、制作サイドは初めて救われたのです。

ただ実際のところ、メディアの視聴率報道にはポリシーのようなものはなく、それほどの悪意もありません。視聴率報道は簡単に記事を作る1つの方法であり、「ドラマタイトルを絡めればそれなりに見てもらえる便利なもの」というだけのこと。

だから「人気作である『silent』の配信再生数を報じた記事は読んでもらえるからどんどん出していこう」という現象が起きました。視聴率や配信再生数の記事にかかわらず、メディアが「silent」を量産していたことも、ビジネスライクなだけであり、視聴率報道に悪意がなかったことを裏付けています。

これは裏を返せば、「もっと配信再生数を可視化するなど、メディアにアピールしていかなければいけない」という民放各局の問題もあるということ。その背景には「まだ視聴率での収入が大半を占める」「配信での収入化が十分ではない」という現実があり、大々的にアピールできていないのです。

それでも、「新しい指標が一般化するきっかけを作った」という意味で「silent」がもたらす影響が大きいことは間違いありません。

ロケ減少の流れに逆行した勇気

最後の4つ目にあげておきたいのは、ロケの大切さを再認識させたこと。

制作費削減、働き方改革、コロナ対策などの観点からロケを減らす作品が少なくなかった中、「silent」は突出してロケの多い作品でした。しかも、小田急線世田谷代田駅、タワーレコード渋谷店などの実在する場所をそのまま使い、しかも美しい映像で見せることでリアリティを感じさせ、登場人物に感情移入させていたのです。

現在も「silent」のロケ地をめぐる“聖地巡礼”の人々があとを絶たないのも、制作サイドがロケの手間を惜しまなかったことで、「再会した紬と想の大切な場所」「本当に住んでいるような気がする」などの感情を生み出したからでしょう。世田谷代田エリア、小田急線、タワーレコードなどへの経済効果も含め、「ドラマが生み出せる影響力の大きさを示した」という意味でも「silent」の功績は大きく、今後のドラマ制作を変えていく可能性を感じさせました。

これは見方を変えると、テレビ業界は「『silent』のヒットによって試されている」ということ。今までのような視聴率至上主義にもとづく、わかりやすさ優先、急展開や驚きでのバズリ狙いの作り方を続けていくのか。若手の可能性より、安定感のある中堅・ベテラン起用を続けていくのか。リスクを避けてロケの少ない作品を続けていくのか。

「テレビ業界が求める若年層を筆頭に、視聴者が何を喜ぶのか」という1つの答えが提示されただけに、ここで変われないようでは明るい未来は望めない気がするのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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