「silent」規格外のヒットがもたらす4つの影響 驚異的な配信再生数で試されるテレビ業界の今後
「ハイテンポや急展開、大きな声や音なども含めて視聴者を驚かせることで、ネット上でつぶやかれ、できればバズらせたい」という狙いですが、「silent」の脚本・演出はむしろ真逆。ハイテンポや急展開はいっさいなく、それどころか手話やスマホで会話を交わす無音のシーンが多用されました。しかし、結果としてはトレンドランキングの上位を占めたほか、メディアのネット記事も量産されるなど、明らかにバズっていたのです。
わかりやすい説明ゼリフをほとんど使わず、視聴者に問いかけ、思いをはせてもらうセリフ中心の作品にしたことも含め、「silent」は最近のドラマ作りを根本から疑い、別のアプローチをした作品でした。「これだけ真逆の作り方をしてヒット作となった」という事実は何を物語っているのでしょうか。
コメディや仕事シーンに逃げない
まず「silent」にキスシーンすらなかったことを見れば、「ラブストーリーは、ベッドシーン、強烈なライバル、略奪、不倫などの劇薬に頼らなくてもいい」ということ。思えば2016年に放送された「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)も、それらの劇薬に頼らず1話ずつ主人公の恋が進んでいく様子を丁寧に描いた作品でした。最近では好評を博した昨年放送の「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(日本テレビ系)も同様でしょう。
しかし、「silent」はこの2作よりも、さらに丁寧で純度の高い作品でした。コメディの要素すらなく、仕事のシーンも限りなく減らし、ひたすら主人公の恋にスポットを当てて徹底的に描くことで支持を得たのです。
過去を振り返ると、ラブストーリーのヒット作が多かった1980年代後半から1990年代にかけては、ひたすら主人公の恋にスポットを当ててほかのことはほとんど描かない作品が主流でした。その後、恋だけではなく、仕事の比重が大きいラブストーリーや急展開が売りのラブストーリーが増えていきましたが、「silent」のヒットは約30年前と視聴者ニーズが変わっていないことを明らかにした感があるのです。
「silent」は、ラブストーリーに限らず、見続けてもらうための展開重視、わかりやすさ優先の説明ゼリフ多用、バズリ狙いの劇薬に頼る作り方に、「それはおかしいんじゃないの?」「もっとテーマを深掘りしたほうがいいのでは?」「もう視聴率ベースで作るのはやめてもいいのでは?」という問いかけをしたように見えました。
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