ロシア経済は「破たん」してしまうのか 過去のロシア危機と、今の状態は酷似!?

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そこで、米国が考えたことは何か。中国とロシアが手を組めば、もはや米国といえどもパワーバランスを維持できないかもしれない。だから、中国をたたくのはさておき、まずはロシアの経済的影響力を叩いておかなければ米国は国益を守れないというのだ。もちろん、この見方はロシア側からの一方的な意見かも知れない。だが、われわれ日本人にとって、ロシア人の一つの国際経済バランスの見方としては「なるほど」と考えさせられるではないか。

「Voice of Russia」を聞く重要性

ロシア人から言わせればだが、ウクライナ問題やロシア制裁も同じ文脈だ。「テイクチャンス(take chance)」に過ぎないとの意見が大勢を占めている。

つまり、米国にとってここ数年間の世界経済におけるロシアの姿勢と行動はことごとく反米的であったから、ウクライナ問題における制裁は、ウクライナの秩序や安定ではなく、ロシアの経済を弱体化させるためロシア制裁そのものが目的であったとの見解だ。

米国にとってロシア制裁は西側同盟国、西側の貿易や金融相手国から締め出すための手段であり、仮にウクライナ問題がなくても、早晩なんらかのきっかけで経済の確執の表面化は避けられなかった、というのがロシアの知識人たちの意見なのである。

われわれ日本人は、いつも同じような新聞報道と画一的なニュースに「汚染されている」ためか、ロシア人の意見を聞く機会などほとんどない。たまにモスクワに行ってウォッカを飲みながらロシア人の友人の忌憚ない意見を拝聴するのも悪くはないものだ。中立的な立場で「Voice of America」だけでなく、「Voice of Russia」を聞くことで、双方の意見の違いが明確になるものだ。

今回のモスクワ訪問を通じて感じたことは、経済的な深刻度の割には、「暗さ」がなかったことである。旧ソ連崩壊時やアジア通貨危機やリーマンショック後の時期にはモスクワの街には物乞いがあふれ治安が悪化していた。だが、現在のモスクワは極めて正常であった。これだけの経済制裁を受けながらも市民の声は冷静であり、対米デモがあるわけでもなく、プーチン大統領の支持率は70%以上という安定政権を維持している。

私の専門は資源屋であり、資源にかかわる経済分野であるから、政治的な発言は専門家に任せるとして、次回は経済的な側面を中心に、ロシア問題が日本にとって実は「漁夫の利」になるのではないかといったことも含めて、現場の一次情報をお伝えしたいと思う。

中村 繁夫 アドバンストマテリアルジャパン社長

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なかむら しげお / Shigeo Nakamura

レアメタル(希少金属)の専門商社「アドバンスト・マテリアル・ジャパン代表取締役社長。中堅商社・蝶理(現東レグループ)でレアメタルの輸入買い付けを30年間担当。2004年に日本初のレアメタル専門商社を設立。著書に『レアメタルハンター・中村繁夫のあなたの仕事を成功に導く「山師の兵法AtoZ」』(ウェッジ)、『レアメタル・パニック』(光文社ペーパーバックス)、『レアメタル超入門』(幻冬舎新書)などがある。

 

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