パキロビッドパックやラゲブリオとゾコーバの違いは、投与の対象となる人だ。パキロビッドパックとラゲブリオでは、肥満や高血圧などの持病がある人や高齢者など、重症化リスクのある軽症から中等症の患者が投与の対象で、臨床試験の結果などから、新型コロナによる入院や死亡のリスクをパキロビッドパックは89%、ラゲブリオは30〜50%低減させることが明らかになっている。
「アメリカでは、政府やCDC(アメリカ疾病予防管理センター)、FDA(アメリカ食品医薬品局)が、“パキロビッドパックを重症化リスクが高く、酸素を必要としない患者に使うように”とアナウンスしています。さらに医師だけでなく、一定の条件下で薬剤師も処方できるようにしたことで、広く使われるようになりました」(岩田さん)
対して日本はどうかというと、政府や厚労省はパキロビッドパックの使用について積極的な通知をしていない。岩田さんは「薬の入手法や処方の手続きが複雑だったり、医師の不勉強から使用を躊躇していたりといった問題があって、あまり使われていないのでは」と話す。そのうえで「個人的にはもっと使われていい薬だと思います」と述べる。
一方、ゾコーバの投与対象は12歳以上の、重症化リスクのない軽症から中等症の患者だ。催奇性があるため、妊婦への投与は禁忌となっている。厚労省は当初、パキロビッドパックの処方実績がある医療機関などへの供給を始めるとしていたが、現在は都道府県が選定した医療機関や薬局で取り扱えるようにした。
ゾコーバは、新型コロナ患者の「鼻水または鼻づまり」「喉の痛み」「咳の呼吸器症状」「熱っぽさまたは発熱」「倦怠感(疲労感)」の症状を改善させる薬だ。その有効性については、今年2月〜7月に日本など3カ国で実施した治験が興味深い。
重症化リスクのない12歳〜60代の新型コロナ患者(軽症〜中等症)1821人にゾコーバを1日1回、5日間投与する治験を実施。発症から3日以内の服用で前述した5症状が7日前後で消失し、症状のある期間が24時間ほど短縮されたことを示した。ただし、パキロビッドパックやラゲブリオのような重症化による入院や死亡が減るというデータは、「もともと臨床試験の項目として設定されていなかった」(岩田さん)ため、現段階では有効性が不明だ。
「緊急承認」する必要はあったのか
咳や鼻水を1日程度早く治す薬――。社会的に見てそれほど重要なものなのだろうか。一部の医療関係者が疑問視しているのは、「緊急承認」する必要はあったのかという点だ。
今年2月に塩野義製薬によって承認申請されたゾコーバは、5月に成立した「緊急承認制度(医薬品医療機器等法第14条の2の2)」において審議された。しかし、7月の審議会で、要件である「有効性の推定」が不十分と判断され、継続審議となっていた。その後、同社は最終的な治験結果を厚労省に提出し、11月の緊急承認にいたった。
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