井手:2019年10月に消費税が8%から10%に引き上げられたときのデータがあります。その年5月の『朝日新聞』の調査では、消費増税に賛成が39%で、反対が54%。ところが引き上げ直後の10月の調査では納得しているが54%、納得していないが40%で賛否がひっくり返った。
あのとき、第2次安倍政権は、幼稚園と保育園を完全無償化しました。これは臆測ですが、直接の受益者はもちろん、これから子どもが幼稚園に入る人たち、子どもが欲しいと思っている人たちの支持がそこに加わった可能性がある。低所得層の大学授業料無償化によっても多くの貧しい人たちが希望を持てた。
それがもしこの賛否の逆転につながっているのだとすれば、おっしゃるとおり、財政健全化と受益の比率はもっと考えてよかったのかもしれないですね。
野田:それは非常にわかりやすい話です。北欧諸国などは消費税など日本よりはるかに高いですが、痛税感は持っていない。受益が体感できて、税金が自分たちの暮らしのために使われていることをわかっているからでしょう。
井手:中間層の税負担をどう思うかという質問に対して、北欧の人は日本の人たちよりも「軽い」と答えるんです。租税負担率は向こうのほうがずっと高いのですが。減税を繰り返すと、サービスの質が下がるから減税をやめろと国民が怒る。負担と受益のバランスが日本と決定的に違う証拠ですね。
安倍さんのときは、2%上げるうちの1%を受益に使いました。5%上げるというとき、受益と返済の比率が1%対4%でなくて2%対3%、さらに半半だったら、結果は全然違ったのかもしれません。未来への責任と、今の人たちの安心感をどうやって調和させていくか、です。
野田:そのバランスの取り方なんですよね。
コロナ禍の出口の議論もないまま、財政出動が延長
井手:現在、コロナ禍で巨額の現金給付が行われています。2020年に特別定額給付金で全国民に10万円を配り、今年も物価高対策で低所得世帯に5万円出す。ほかにもさまざまな給付が行われていてすごい勢いで現金がばら撒かれ、同時に債務も急激に増えている。
この現状をどうご覧になりますか。
野田:新型コロナウイルスの感染が拡大し始めたころは、何をすればいいかわからない中、金額もある程度膨らませて、とにかくスピード感を持って対策を取らざるをえなかったのは理解できます。
でも2、3年経っても出口の議論もないまま、財政出動がどんどん延長される。補正予算の審議でも25兆円が1日で4兆膨らみ、しかも予備費で対応。やり方がむちゃくちゃで、非常に危機感を覚えます。財政規律が相当緩んでいる。
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