防衛費も国債?日本の財政規律が緩んだ根本原因 野田佳彦元首相が語る「財政民主主義」の危機

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野田佳彦・元首相と井手英策・慶応大学教授
野田佳彦元首相の胸の内に井手英策・慶應義塾大学教授が迫ります(写真:尾形文繁)
参院選遊説中に、凶弾に倒れた安倍晋三元首相。その追悼演説を引き受けたのが、野田佳彦元首相だ。10月25日の衆院本会議で行われ、終了後も議場の拍手が鳴りやまず、与野党を超えて称賛する声が相次いだ。
野田氏と安倍氏は1993年の衆院選で初当選した同期であり、民主党政権だった2012年には2人の党首討論をきっかけに衆院解散、総選挙が行われ、自民党が政権に復帰した“因縁”もある。
それから10年経った今、野田氏は日本の政治をどう見ているのか。慶應義塾大学の井手英策教授が聞いた。(インタビュー日は11月18日、全3回の2回目)
第1回:野田元首相が今語る「12年党首討論→解散」の本音

今の予算は税が前提になっていない

井手:自治体の現場では、国からコロナ関連の事務的な仕事や現金給付が次々に降ってきて、本来やるべき通常業務が先送りになっている。先ほどの予備費の問題も、膨らむ補正予算に加えて、国庫債務負担行為をどんどん使うようになっている。防衛費増額も将来の負担を増やしますし、目に見えにくい形で将来の負担がどんどん増えている。この数年の間に、民主主義の危機ともいうべき状況が生まれているように感じています。

今の民主主義の質について、どうお感じですか。

野田:基本中の基本は財源です。さまざまな政策があってしかるべきですが、今はいずれも財源の議論がない。

野田佳彦(のだ・よしひこ)/1957年生まれ。1980年早稲田大学政治経済学部卒業後、松下政経塾、千葉県議会議員を経て、1993年衆議院議員初当選。2010年財務相、2011年首相などを歴任。2020年立憲民主党最高顧問(写真:尾形文繁)

コロナ対策も、防衛費も、子育て支援もどれも大事です。ですが、財源の議論とセットでなければおかしい。単に国債を増やせばいいというものではないんです。

すべて「財源なくして政策なし」だと思うんですが、ここ2、3年はそれが極めておろそかになっている。コロナ禍だから、ウクライナ侵攻があったから、物価高だからしょうがない、ではなく、どんな場面でも財源を念頭においた政策でなければ、規律は緩んでいくばかりだと思います。

井手:まず大前提は税金ですね。無駄遣いをすると、いつか必ず税負担が上がる。それは嫌なので、何が必要で何が不要なのかを話し合わなければいけない。さらにそれを誰から取るのか、どの税で取るのか、税率を何%にするかも皆で話し合わないといけないですね。

この話し合いの積み重ねのことを「財政民主主義」という。これが、民主主義の基本ですね。国会の1年の仕事のほとんどは、結局予算をやっているわけですし。

ところが、今はもう税が前提になっていないので、話し合う余地がない。要不要の検討もないまま、次から次に予算に盛り込まれていく。野党議員にも反対しない人がけっこういますね。「皆、喜ぶんだし、お金をもらえるならいいだろう」と。

野田:むしろ競争してしまっている。

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