防衛費も国債?日本の財政規律が緩んだ根本原因 野田佳彦元首相が語る「財政民主主義」の危機

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野田:総理大臣は内奏(天皇に国内外の情勢について報告すること)をする機会があります。私のときは今の上皇上皇后両陛下に内奏していたんですが、両陛下がこんなお話をされていました。

当時は東日本大震災の後で、被災地に何度も足を運ばれていました。そこで地域の方と一緒に座って、ただじっと話を聞く。そうしていると、ぽろぽろと、胸に秘めていた悲しいことを話される。孫が目の前で流されてしまったとか、水門を閉めに行った消防団員だった夫が帰ってこないとか。それに一生懸命耳を傾けるのが私たちの仕事で、それが絆になっていると実感できるようになったとおっしゃっていて。

共に助け合う絆をずっとつくり続けていくこと。そしてその象徴の皇室。それが日本だと思いましたね。

もう1つ感銘を受けたのが、上皇陛下のニホンミツバチの話です。皇居の庭にできたミツバチの巣がスズメバチに襲われてやられてしまった。スズメバチはミツバチよりずっと大きくて普通は勝てるわけがない。でも陛下は「ニホンミツバチだけはスズメバチに勝つことがあるんだけどね」とおっしゃるんです。

スズメバチとミツバチでは耐えられる温度が違う。スズメバチは45℃まで、ミツバチは50℃近くまで耐えられる。そこでミツバチは集まって羽をこすって高温を作り出し、47℃近くまで上げることで巣を襲ってきたスズメバチを倒すというんですね。女王バチと子どもたちを守るために。

動植物にお詳しい陛下が、あくまでニホンミツバチの性質としてされたお話です。ただ私はこれは日本人論だと感じたんです。困難があっても、1人ひとりの力は小さくても、支え合って、守り合って、戦い合って、乗り越えることができるのが日本だと。

日本にある「共在感」

井手:なるほど。先ほど「共生」という言葉をお使いになりましたが、もう1つ「共在感」という言葉があります。

シンパシー、共感はできやすく冷めやすい。一体感はa sense of oneness。自分を殺して皆が1つになる。戦争中の日本はこのイメージでしょう。

そうではなくて共在感。東日本大震災のとき、あの自然の猛威の前に多くの人々が命を奪われていったときに、私たちは同じ国に生まれた仲間として、あたかも自分の家族を失ったかのような痛みを感じていた。それは「共に在る感覚」なんだと思うんですね。

野田:だからあのとき、法人税も所得税も、復興増税というかたちで国民全体に負担をお願いしましたが、それがだめだという議論はほとんどありませんでした。

井手:もし、その「共に在るという感覚」が日本では歴史的に強かったとするなら、それをどうやって再び育んでいくのか、という大きな宿題を私たちは突きつけられているのではないでしょうか。社会が分断されているというお話もありましたが、それは共在感がどんどん毀損され、バラバラになっていっているということなんですよね。

(構成:勝木友紀子)

第3回に続く

井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授

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いで えいさく / Eisaku Ide

1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。総務省、全国知事会、全国市長会、日本医師会、連合総研等の各種委員のほか、小田原市生活保護行政のあり方検討会座長、朝日新聞論壇委員、毎日新聞時論フォーラム委員なども歴任。著書に『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波新書)、『いまこそ税と社会保障の話をしよう!』『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)ほか多数。2015年大佛次郎論壇賞、2016年慶應義塾賞を受賞。

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