――企業は具体的にどうしたらいいでしょうか。
たとえば、これから勝っていくメーカーというのは、その中にいるトップからチームメンバー全員がある程度、ITの素養とかインターネットで何ができるか、何がしたいかということが、真っ先に頭に浮かぶような人でないとダメでしょうね。メーカーでなくても、ITを前提として考えられない人が考えたことというのは、5年後には使えないかもしれない。
公立小で、生徒全員がやることに意味がある
――佐賀県武雄市の小学校で行っているプログラミング教育は、どこに特徴がありますか。
武雄市では一握りのできる子どもがプログラミング教育を希望するのではなくて、全員がやるという点です。それが特徴で、価値があると思っています。先ほども言いましたが、全員にある程度プログラミングの素養がつくことが重要だと思うのです。
彼ら、彼女らがいちばん関心があることは、プログラミングではなくて音楽だったりするでしょうし、将来はドクターや教師などさまざまな夢があるでしょう。中には絵描きになりたい人もいるよねという中で、ITはどうやって使えるの?という発想が全員できないといけない。その裾野を広げるのにプログラミング教育はいちばんいいと思っています。
――佐賀県武雄市での実証研究の態勢を教えてください。
これがもう大変で(笑)。学校の担任の先生に、授業のスクリプトを送ったりもしています。私とCTO(最高技術責任者)が毎月のように現地に足を運んでいるのです。そのCTOともうひとりプログラミングを組む人間がいて、あとは広報、担当プロジェクトマネジャーと私がメンバーで、合計5人です。ちなみにフルタイムでやっている人はいないのでバタバタです。
――今回のように、自治体で新しい取り組みを行うには何が重要になるのでしょうか。
やはり首長の理解と、リーダーシップがないとなかなか難しいですね。首長がやる気になって、初めて(教育のトップである)教育長がやろうという気持ちになってくれる。そういった意味では、武雄市は非常に気持ちよくスパーンと決まった。ほんの1週間くらいでやることが決まりましたね。
――武雄市の事業では、小学校1年生のみを対象としています。なぜ小1だったのでしょうか。
プログラミングは言語だから、吸収力がいちばん大きい年齢でやるのがいいと思ったんです。たとえば、中学校1年生なら、もうアルファベットを使ったプログラミングになってしまいます。今、武雄市では小学校1年生にビジュアルプログラミング(プログラミングを文字で行うのではなく、図形やブロックなどの視覚表現で行うプログラミング)をやってもらっていますが、ちょうどこの年頃はアプリなどを使って遊び始める年齢です。そのときに、「あっ、僕でも私でも作れる」「これは、人間が作れるものなんだ」ということがわかるというのは、非常に重要なことです。
――実際、小学校1年生から始めてよかったという実感はありますか?
たとえば、プログラミングでキャラクターを作ったとしますよね。そこで、「お願い」したとおりにキャラクターが動いたりすると、彼らは歓声を上げて「うわ! 動く!」と感激したりするのです。その歓声を聞いて、やっぱり1年生でよかったなと思いますね。
歓声や感動と学ぶスピードは、絶対に比例すると思うのです。今、彼らは本当に純粋で、すごく感動する年頃だから、多くを吸収していると思います。小学校1年生のときから、たとえば漢字を書くときにその書き順が正しいか正しくないかを問うていると、わりと早いタイミングで正解を言い当てる教育システムに染まってしまいます。私は、そうではない道を作ってあげたい。
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