追い詰められた男の発想が変えた食材の歴史 便利な冷凍食品、ルーツを知っていますか?
レンジで温めるだけで食べられる。かつ長期保存も可能。冷凍食品は今や日常生活に欠かせないが、かつては「美味しくない」「食感が悪い」などと評判は芳しくなく、一般家庭や外食産業などに受け入れられるようになるまでには、多くの困難があった。
3月28日(土)夜9時からTBSテレビが放送の60周年特別企画「ものづくり日本の奇跡」の「第5夜」では、冷凍食品の普及に立ちはだかったハードルを乗り越えた男たちの闘いが描かれる。キーワードは「オリンピック」と「シベリア」だ。
「オリンピック」が必要とした冷凍食品
話は50年以上前にさかのぼる。1964年の東京オリンピックだ。開催まであと1年半となった1963年4月、日本を代表する4つのホテルの料理長が集められた。世界各地から集まるおよそ7000人の選手団が、選手村で取る食事を提供するのは開催国の慣例だった。そこで検討されたのが、選手村で提供する食材の調達問題だ。
大会期間中に選手村で必要な食材は肉120トン、野菜356トン、魚46トンなどと膨大な量で、それは東京都民が1日に消費する量の5%にも相当した。もし、期間中に一気に購入すると食材価格の高騰を引き起こし、庶民の食卓を直撃するのは明らかだった。
「何とかできないものか…」
集められた4人の料理長のうちの1人で、帝国ホテル料理長だった村上信夫は、解決策を模索し始める。本格的な西洋料理を学ぶために、フランスの名門ホテル・リッツで修業し、その腕を総料理長に認められた腕前の持ち主だ。
思い悩んでいた村上に「冷凍食材を使いませんか?」と提案したのは部下の白鳥浩三。アメリカの航空会社に出向して機内食で使われる冷凍食品の技術を研究し帰国したばかりの人物だった。
食材を冷凍して蓄えておけば、価格高騰を避けられる。村上は早速「日本冷蔵株式会社」(現・株式会社ニチレイ)の協力を取り付け、冷凍食材を使ったメニュー開発に着手する。「ウチの技術を使えば、どんな食材でも長期保存できます」という担当者の言葉通り、様々な食材を冷凍して長期保存することが可能であることが分かった。
しかし、肝心の味は思うようにならなかった。自然解凍させた冷凍食材を使った食事は、食感が失われたり、水っぽくなったりで、とても満足できる水準にはならなかったのだ。
「やはり無理なのか・・・」と、追い詰められた村上に、かつて自身が体験したある光景が浮かんだ。
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