一方、ウクライナとは異なり、日本と中国の間には海がある。地続きのウクライナとロシアが相互に航空優勢を取れなかった結果、泥沼の地上戦で被害が拡大しているが、日本はその地の利を生かし、地上のみならず、海空からも縦深的に相手の能力を拒否すべきだ。
もちろん、複雑な地形を生かした地上からの戦いとは異なり、透明性が高く平面的な海空領域は、レーダーによる暴露性が高く、非対称戦を戦うのに不利な環境である。しかし、海には海中という暴露防止に適した領域があり、また、空域における暴露性という欠点は、多数の小型無人アセットの運用により補完できる余地がある。陸上からの長射程ミサイルもこうした能力を補完できる。
防衛力強化の優先順位を明確に
海上・航空優勢の獲得を目指し、それを失ったときには、島嶼を含め、陸上で迎え撃つことを基本としてきた日本の防衛力は、「縦深拒否戦略」をとる場合、大きな変更を迫られる。
特に、従来型の地上戦を戦うために設計された陸上自衛隊の15の師団・旅団等は、現在の戦略環境では真っ先に戦う部隊ではなく、その多くは最後まで用いられないかもしれない。
そうだとすると、これら部隊の一部は、「縦深拒否」遂行のため、小型で分散した多数の部隊を擁する「ミサイル旅団」や「無人機旅団」への抜本改編が必要になるだろう。また、海空自衛隊は、有人戦闘機や護衛艦の限界を認識し、海上・海中・空中で活動しうる無人アセットを大幅に増勢するのが望ましい。
導入が報道されている長射程ミサイル、無人機、ISR能力などは、どれもこうした戦略を実現するため不可欠であり、持つべき能力として異論はない。しかし、「縦深拒否戦略」の観点からは、長射程の地対空ミサイルと攻撃型海中無人艇(UUV)導入に関する議論が見られないことに不安が残る。特に、UUVについては、防衛省の概算要求説明資料でも、いまだ要素技術研究の要求にとどまっているのが懸念だ。
防衛戦略を明確にすることは、防衛力整備の優先順位をあぶり出してしまう。各自衛隊で組織防衛バイアスが働く誘因は大きいが、防衛力のみならず防衛戦略を明確にすることで、健全な議論が行われることが求められる。そのためには、防衛力整備計画を具体的に記した中期防との区別が曖昧だった従来の大綱に代えて、安保戦略を具現化して目指すべき防衛戦略を示す「国家防衛戦略」文書の策定が期待される。
(小木洋人:アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/
地経学研究所 主任研究員)
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