日本の防衛「中国の2つのジレンマ」に有効な戦略 戦略3文書改訂で「縦深拒否」を目指すべき理由

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さらに、これまで、中国のミサイル戦力等の増強は、A2/AD能力としてアメリカが軍事介入するコストを高めてきた。しかし、中国が台湾侵攻に必要な着上陸能力等を強化するに従い、逆に日米のA2/AD能力に向き合わざるをえなくなる。中国がアメリカの軍事介入を拒否するだけでなく、自らの戦力を投射するとき、新たな脆弱性が生じ、「戦力投射と脆弱性のジレンマ」を生むのである。

日本が目指すべき防衛戦略

日本が目指すべき防衛戦略は、中国が抱えるこの2つのジレンマに有効に働きかけるものとしなければならない。すなわち、その目標は、中国が台湾有事に日本を巻き込んだ場合の損害が大きいこと、また、日本の能力は先制攻撃によって無力化できないものであることを悟らせ、台湾侵攻や日本への攻撃を躊躇させることだ。

もちろんこれは防衛力のみで成し遂げられるものではなく、日本を含む国際社会が台湾に対する中国の力による一方的な現状変更を傍観し、ディカップルされないための外交政策や認知戦への対応と組み合わせて取り組む必要がある。しかし同時に、防衛力の裏付けなしに、現在の中国を外交のみによって抑止することもまた不可能だ。

この目標を達成するため、日本が目指す防衛戦略は、前線に兵力を集中して逐次対抗するのではなく、相手の作戦遂行を縦深的に拒否する、すなわち、より遠方の洋上後続部隊や地上の指揮統制・ISR能力を含め、カギとなる兵力や脆弱性を突く「縦深拒否戦略」であるべきだ。そして、その遂行に当たっては、アメリカとの相互補完を前提とする必要がある。

30大綱における島嶼防衛への対応は、部隊の事前展開、海上・航空優勢の確保、侵攻部隊の上陸阻止、海上・航空優勢が逆転した状況での脅威圏外からの阻止、島嶼奪回という流れで記述されている。しかし、こうした海上・航空優勢か領土防衛かという二者択一は、中国の圧倒的な軍事力に直面し、かつ、ミサイルや無人機が役割を増す現代戦においては、もはや最適とはいえない構想となった。

ロシア・ウクライナ戦争は、これを事実として示しており、当初ロシアは圧倒的な航空・ミサイル戦力を持ちながら、ウクライナの防空能力を無効化できず、航空優勢を今に至るまで獲得できていない。この点、その原因について、多数の無人機や短距離地対空ミサイルなどを効果的に活用した「航空拒否(air denial)」により、ウクライナがロシアの航空優勢を妨げていることを指摘する議論がある(ブレマー/グリエコ)。

この観察が正しければ、今後の戦争は、戦闘機や空母などの大規模戦力により海上・航空優勢を獲得する戦い方から、独立・分散・抗堪化した戦力で相手の作戦遂行を非対称的に妨げる拒否的戦略に重点が移行していく可能性がある。

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