この2つのアドバンテージに加え、大学には研究者同士の自由な意見交換という強みがある。
基礎研究はこうして進む
基礎研究の多くは、研究者が毎日のように顔を合わせ、同僚の過去の研究に基づいて自分の研究プロジェクトを組み立てるという流れの中で進む。
研究者Aがあるアイデアを途中まで追究したものの途中で挫折して放置しておいたのを、研究者Bが拾い上げて発展させ次の段階にこぎつけ、ついには商業化されるといったことはめずらしくない。
最初の段階での交流を禁じたら、アイデアの流れを滞らせ、いつの日かイノベーションに結実する可能性のあった芽を摘むことになる。
基礎研究に取り組む研究者は、どの方向に進むのかをあらかじめわかっていないことがままある。彼らにとっては、よい質問をすることが答えを見つけることと同じくらい重要なのだから、それも当然だろう。
これに対して応用研究に移る段階では、道ははっきりとつけられている。ステージ1で成功し商業化に結び付くイノベーションを創出するには、研究者のチームがその1つのイノベーションに集中する必要がある。
企業は、どのような製品やソリューションに重点投資するのかあらかじめ的を絞り、研究チームに具体的な指示を出すという役割を担う。
だから、企業の研究者には自分で研究テーマを決める自由はない。また企業内での研究について外部の研究者と自由に意見交換することも禁じられる。
企業としては、他社にアイデアを盗まれないよう秘密を守る必要があるからだ。このリスクは、イノベーションが商業化に近づくほど大きくなる。
このように、企業内の研究者は2つの自由を得られない代わりに、大学よりもかなりよい報酬を受け取る。
以上のように、大学の研究には3つの特徴がある。報酬が低いこと、研究テーマや進め方を自由に決められること、ほかの研究者と自由に交流できることである。
基礎研究におけるこうした自由を制限することは、イノベーションにとってきわめて有害であり、新しいアイデアの量も多様性も損ねることになりかねない。
さらに、斬新なアイデアを持ち合わせている外部の研究者の参入をも阻むことになるだろう。