資本主義を放棄してはいけない
広く世界を見渡せば、不平等の拡大、企業利益の極端な集中、雇用不安定の増大、劣悪な公衆衛生、環境破壊といった問題がある。これらは数十年前から議論されてきたことだ。
経済システムそのものの根本的な改革が必要ではないのか、いやもっと言えば資本主義を放棄すべきではないのか……。
本書の主張は、資本主義にまさるシステムを探すよりも、資本主義をより適切に運営すべきだというものである。創造的破壊の力を活かせばそれは可能だ。
創造的破壊には、何よりもまず、成長を生み出す驚くべき力がある。200年足らずの間に想像を超える繁栄へと社会を導いてきたのは創造的破壊にほかならない。
本書は経済史を通して世界を見る旅に出る。この旅では、創造的破壊というレンズを通して経済成長の謎を探っていきたい。
創造的破壊とは、新しいイノベーションが次々に生まれて既存技術を時代遅れにし、新しい企業が絶えず既存企業と競争し、新規雇用と事業が続々と創出されて既存の雇用と事業に置き換わっていくプロセスのことである。
創造的破壊は資本主義の原動力であり、無限の再生を可能にするが、同時にリスクや混乱ももたらす。よって適切な規制や指導のあり方を学ばなければならない。
本書の目的は大きく分けて3つある。
第1は、世界の経済成長プロセスに伴う歴史上の大きな謎を解き明かすことである。
19世紀の産業のテイクオフ、技術革新のビッグウェーブ、長期停滞、不平等の拡大、国家間の生活水準の収束と乖離、脱工業化と産業構造の変化などを取り上げる。