だがここに悩ましい問題が生じる。収穫逓減(ていげん)である。たとえば生産要素の1つである機械の投入量を増やしても、それに伴う生産量の増分は投入量の増加とともに減少する。よって貯蓄の増え方も減り、したがって資本蓄積の増え方も減る。
こうしてある時点から経済は停滞し、成長しなくなる。ソローがみごとに説明したとおり、持続的な成長を生み出すためには、技術の進歩によって機械の質を向上させる、すなわち生産性を向上させることが必要だ。
ただしソローは決定因となる技術の進歩について、とくに何がイノベーションを促し何が阻むかについて、十分に分析していない。
次に実証的な理由だが、いま述べたように、新古典派の成長モデルは長期的な成長の決定因を説明できない。成長プロセスをめぐる一連の謎の解明はもっとできない。
一部の国はほかの国より速いペースで成長するのはなぜか、一部の国の1人当たりGDPは先進国の水準に達するのに、ほかの国はいつまでも低水準にとどまるのはなぜか、また途中で足踏みしてしまうのはなぜか。
以上のように理論、実証いずれの面でも既存のパラダイムは不十分だ。そこで私たちは、まったく新しい分析の枠組みを開発したいという誘惑に駆られたわけである。
創造的破壊のパラダイム
創造的破壊のパラダイムに基づく成長モデルは、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが提唱した次の3つのアイデアから着想を得ているため、シュンペーター理論に基づく成長モデルと呼ばれることもある。ただしこれまで厳密にモデル化され検証されたことはなかった。
3つのアイデアの第1は、イノベーションと知識の普及が成長プロセスを支えるということである。
長期的な成長は、新しいイノベーションの開発者が過去の知識の蓄積すなわち「巨人の肩の上に乗って」積み上げたイノベーションの結果として実現する。この見方は、技術の進歩なしには長期的な成長は起こり得ないというソローの結論とも一致する。
知識の普及と体系化があって初めて、イノベーションは次のイノベーションを生み出すようになる。巨人の肩の上に乗ることができなかったら、シジフォスの神話のように毎回ふもとから同じ山を登らなければならない。