大学で研究するか、企業で研究するか
シュンペーターのパラダイムの主役は、何と言ってもイノベーションを生み出す企業家である。
企業家は先人の知識から出発して研究開発に投資し、イノベーション創出の可能性を高める。イノベーションをめざすのは、商業化が可能であり、超過利潤をもたらすからだ。
したがって財産権の保護が非常に重要になる。財産権が保障されてこそ発明家とその利益は模倣から守られる。
シュンペーターのこのパラダイムは、経済に関するさまざまな事実や謎を理解するための有力な手がかりとなる。
とはいえ経済学のパラダイムがどれもそうであるように、シュンペーター理論もまた実際には複雑な現実をいくらか隠してしまうことは避けられない。
知識の蓄積から話を始めることにしよう。現実には、イノベーションは先人の知恵だけに依拠するわけではない。基礎研究に負うところも大きい。
そして基礎研究は、企業が行う研究開発の論理にも誘因にも従わない。大学や独立系研究所で働く研究者の報酬は、企業内の同水準の研究者と比べると、だいたいはかなり低い。
大学で研究するか、報酬のよい企業で研究するかを選べる立場にある人が、大学を選ぶのはなぜだろうか。答えは学問の自由である。
大学の研究者は、自分の研究テーマを自由に選べる。新たな研究プロジェクトを自分で決められるし、途中で打ち切って別のテーマを探してもいい。
商業化に結び付かないような研究プロジェクトに参加するのも自由だ。それに、ほかの研究者と自由に交流し意見交換できる。共同研究者も自由に選べる。研究成果を共有することも自由だ。