キー局決算に見る放送業界「史上最悪の危機」 なぜフジテレビだけ放送収入大幅ダウンなのか
ところでキー局の業績を個別に見ると、気になることが出てくる。2019年度と2022年度の放送収入を比べると各局とも下がっているわけだが、まずTBSは-1.5%と傷が浅いことに気づく。そしてもう1つ、フジテレビだけ2桁ダウンであることも、否応なく目についてしまう。
これはなぜなのか。フジテレビが特に激しく視聴率を落としたのかというとそうでもない。この4年間でどの局も視聴率を下げたが、下がり方はさほど変わらない。
私はこれは、戦略を明確に打ち出せたかどうかによると考えている。
試行錯誤するテレビ局各社
TBSは、2021年に大きなリブランディングを行った。これはロゴを変えるレベルではない。今後自分たちがどう進むべきかを真剣に議論した結果を凝縮した本当の意味でのブランディングだ。「最高の“時”で、明日の世界をつくる。」というブランドステートメントを掲げ、VISION2030では「放送の枠を超えコンテンツを無限に拡げよう」と宣言した。
ブランディングを言葉に集約し、社員のレイヤーごとに伝えていく作業も行ったらしい。経営上層部から末端社員まで「どう変わるか」を意識づけしたのだ。番組作りから営業姿勢まで新しくなった結果が、放送収入ダウンを最低限に押しとどめたのではないか。
他の局も戦略を言葉にしている。
日本テレビは以前から戦略を社員が共有してきた。直近の経営計画では「テレビを超えろ、ボーダーを超えろ。」という勇ましいスローガンを掲げている。戦術レベルでは「OFFからONへ、ONからFANへ、FANからBUZZへ」を打ち出した。目指すものが明解だ。
テレビ東京も昨年「全配信」を宣言し、どの番組もネットでさらに活用し価値を広げると言い始めた。今年はさらに「放送・配信・アニメのトライブリッド戦略」を掲げ、具体的な戦術を示した。その影響か、会社として勢いを感じる。
テレビ朝日は2017年に「テレビ朝日360°」を掲げ、BS・CSにネットとリアルな場を含めた全方位メディアを指針として示した。ただ、それから5年経ちこの言葉も鮮度が落ちている。新しい言葉が必要なタイミングに思える。
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